1 弱気な私 ページ1
「冷た…」
部屋から一歩踏み出せば、冷たい空気に曝されていたコンクリートの床の温度が、
ひんやりと足の裏に伝わってくる。
急に冷たい床に立ったせいか、一瞬急激に寒くなって身を震わせた。
そもそも、裸足で歩き回る私が悪いんだし、それも分かってるんだけど。
どうしても、今更履く気になれないのだ。ずっと履いてなかったから、違和感しかなくて。
『寒い、やっぱ部屋に戻りたい』と本能が叫んでいるが、体に鞭を打って歩を進めた。
エレベーターを使って、今いる5階から1階まで降りる。
因みに私と…お兄ちゃんの住むこのマンションは10階建てで、私の家は丁度真ん中
という事になる。
今はもう慣れたけど、まさか田舎の普通の家で暮らしていた私が、マンション暮らし
なんてちょっとおしゃれな事出来るとは思ってもなかった。
あ、でも…おしゃれだって思ってるのは、私だけなのかもしれないな。
だって、彼女(・・)にはそんな事ないって言われちゃったし。
「…あっ」
そうこうしている内に、いつの間にか目的地であるスイーツショップに着いていた。
一応このスイーツショップの常連で、それくらい此処に通ってるくらいだから脳が
此処に来るまでの道のりを覚えてしまっているのかもしれない。
レンガ造りの屋根。可愛らしく装飾された看板。入り口の両側に飾られたプランター
の中で咲いている可憐な花達。
散々見慣れた筈の外装に見とれてから、店に入ろうと出入り口へと近付く。
そして、自動ドアがウィーンと音を立てたと思った直後。
「きゃあっ!?」
急に人がぶつかってきて、私は尻もちをついてしまう。
「あ、あの…」
自分でも情けないと思う程に弱々しい声を発し、それと同時に顔を上げる。
すると、そこに立っていたのは、一瞬壁かと思ったくらいに大柄の、
腕にタトゥーをいれた男の人だった。
「おい、ガキ…どこ見て歩いてんだ?」男の人がイラついた面持ちで喋った。
その棘のある声色にビクッと肩を震わせる。
違う。
私じゃない。
『ぶつかって来たのは、あなたの方じゃないですか!』
私にそんな事を言える勇気なんてある筈もなく、ただ男の人の髭に覆われた顔を
見つめながら、「えっと…」と口ごもる事しか出来ない。
確実に、わざとぶつかってきた。理由は、恐らく――。
「おい、謝れよ。…いや、謝るだけじゃ足りねぇな。金渡せ、金」
…やっぱり。
にしても、こんな人の迷惑になる所で、せびるなんて。
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菜の葉(プロフ) - 派生作品作りありがとうございます! こちらのリンクを、募集企画の『リンク集』に貼らせていただきますね…! (2020年1月24日 23時) (レス) id: 3098d3a1cc (このIDを非表示/違反報告)
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