ぬるい吐息と冷たい指先

Anemone . 6 ページ6

…だけど、私はなんでもできた。

……運動とかは平均より少し下だったけど

文才があって

画力があって

字も綺麗で

学校で課題として出た作品を提出する度に賞を取っていた。

歌も上手でダンスもできて

ピアノもギターも

部活でやっていたアルトサックスも上手く吹けて

…そんな、なんでもできる人間。


……それも私だ。


…だけど、ある時もう賞を取るのが嫌になって

人に注目されるのが嫌いになって

ピアノのコンクールで乱暴に弾いた。

これだったら落ちるでしょ、そう思った。

…結果は

いちばん良いものだった。


"感情が表されている"

"思いが伝わってくる"

"感情と技術が釣り合っている"


…私は、嫌だったのに。


私がなんでもできるせいで

私は誰かの悪役になってばかりだから。


……友達も、彼氏も、

…もちろん、親友も家族も

話せる人なんてひとりもいなかった。


みんなどこか距離を感じていて

一見近いように見えても

そこには高い壁があった。


そんな時

高い壁をがんがん無視して話しかけて来たのが

…この可愛い子、スヨンちゃん。


まるで "元から壁なんて無いんだよ" って言ってくれてるみたいで

すごく、嬉しかった。


SN「じゃ、気をつけて帰ってくださいね！」

『うん、スヨンちゃんも。

…送ろっか？(笑)』

SN「へーきです。酔いは冷めたんで(笑)」

『気をつけてね、また明日。』

SN「はい！おつかれさまです！」

『おつかれ〜(笑)』


電車に乗り、ほとんど誰もいない座席に座る。

…朝はあれだけ混んでいても

夜はだれもいないんだなぁって。


……ふと、テヒョン…のことを思い出す。

ほんとはどんな人なんだろ、とか考えたり。


《…あなたみたいな人、初めてです》

《…そんな生返事じゃ襲えないって……》

《…じゃ、優しくしなきゃね》

《……キスだけだから。怒んないでねっ》

《待ってる。》


慣れてそうで

慣れてなくて

隠しきれてそうで

隠しきれてなくて

そういうところが、少し幼くて

…とても、不思議な人。


テヒョンはそんな感じだ。


……明日、会いに行こう。

また明日、会いに行こう。


寂しそうなテヒョンに

会いに行こう。


…電車を降り、歩いて家まで帰る。

お風呂は…明日の朝入ろ。


服を着替えてベッドにダイブする。


朝の５時にアラームをセットし、私は眠りについた。

Anemone . 7→←Anemone . 5

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す