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「心配しただろ」


消え入りそうな声で言った。竜胆のそんなに弱弱しい声は初めて聞いた。

きっと私の前ではいつも気丈に振舞ってくれていたから。彼は彼なりに頑張ってくれていたことにやっと今気付いた。もう、今更だけど。

力強く抱き締めてくる竜胆の手を外して、竜胆の方に向き直る。彼は私の肩に手をかけた。家を出たときみたいにぎゅっと強くじゃなくて、私が手を振り払えば離れてしまうような強さで。


「竜胆、もう私は、」

「オレはAのこと大好きだよ」


俯きながら言おうとした言葉は竜胆のはっきりとした真っ直ぐな声に遮られた。「ちゃんとオレの顔見てよ」と言われて竜胆の瞳を見つめる。ラベンダーのような優しい色に見とれそうになる。彼の瞳には私が反射して映っていた。


「私__ 」


ちゃんと言わなきゃいけないのに、涙が出てきて上手く言葉が出てこない。そんな私の頭を竜胆は笑いながら優しく撫でてくれた。


「私、竜胆のこと大好き、」


ぐずぐず泣いている私の涙を指先で拭ってくれる彼の顔はいつもよりも優しく見えた。
彼はいつまでも泣き止まない私に呆れることなく、私の手をそっと握ってくれた。


「嫌なこと言っちゃってごめん、」
「うん」
「2番目とかじゃないの、本当は自分が1番分かってるけど、不安になっちゃったの」
「うん」


分かってるよ、と笑いながら私のとめどなく溢れた言葉を竜胆は肯定してくれた。
私が一通り話し終わったのを見て、彼も重たい口を開いた。


「オレがどんな人間でもAは好きでいてくれるか?」


こくこくと必死に私が頷くのを見て、溜息をつきながら続けた。


「オレはAが思ってるような綺麗な人間じゃねぇよ。ちゃんとした仕事もしてないし、少なくともオマエみたいな一般人の言う"良い大人"じゃない」

「うん」

「Aにはいつか言わなきゃって思ってた。オレは本当は勤めてるのは普通の企業じゃない、まぁ、これはさすがに髪色とかでバレてンだろ?」

「まぁね」


その髪色にスーツ。最初の頃はハイネックで隠していたが、たまたま見えてしまった首元にある刺青。その後、まさか身体中にあるとは思わなくて、初めて見たときはかなり怖かった記憶がある。

仕事の内容を言いたがらないのも、そういういわゆる裏の仕事だからなのは想像がついていたし、本人はふらふらで覚えてなかったかもしれないが、血塗れで帰ってきたことだってあった。

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Alice(プロフ) - きなこだいふくさん» 最後までお付き合いいただきありがとうございました…!そんな風に言っていただけて嬉しい限りです…!続編を作るかもしれないので、もし作った際はぜひよろしくお願い致します♡ (2022年4月2日 17時) (レス) id: fa28fe383f (このIDを非表示/違反報告)
きなこだいふく(プロフ) - 完結おめでとうございます。とても面白い話がたくさんあり、私自身とても楽しく読み進めることができました。こんな神作をありがとうございます!そして、更新お疲れ様でした! (2022年4月2日 11時) (レス) @page46 id: 90c5be706c (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:Alice | 作成日時:2021年9月19日 20時

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