薫風 T (ページ14)

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「…玉森くん？………何かあった？」

「先生が居たから、つい来ちゃっただけだよ」

「そうなの？突然名前呼ばれたからびっくりしちゃったなあ～笑」

「さっき昼隣にいたやつわかる？俺そいつのこと待ってんだよね。だから暇でさあ、ウロウロしてたの」

「へえ、仲良いんだね。あの子と」

「まあね、俺あいつしか友達いないもん」

「……だから先生さ、俺と友達になってよ」

「…面白いね、玉森くんって」

「……ダメ？」

「まあいいけど…秘密ね？
私、これでも一応先生だから。」

「やった…ありがとう、先生。」

「…ねえ、さっきまでいた人、大丈夫？」

「ああ、藤ヶ谷くん？」

「あの人さ、白組の団長だよね？あの人の話が出ると女子達がキャーキャーうるさいんだよね、」

「男前だもんねえ、藤ヶ谷くん。今日もこれから応援団の練習なんだって」

思い出すだけで不愉快になる男の話をしていたら、時計の針は16時半をさそうとしていた。

「そろそろ私も仕事しなくちゃ、」

「…じゃあ下まで一緒に行こ、」

.

下と言っても俺の教室はすぐ真下の階だから、
一階まで行くつもりの先生と一緒に降りる階段なんて、たかが知れた距離だった。

「あ、先生ちょっと止まって？」

ふと思い立った俺は、隣にいる先生にそう言って、残りの階段を一気に駆け降りてみた。

そこから、まだ階段に立っている先生を見上げる。

「何ー？びっくりしたなあ」

「1段ずつ降りて来て？あと5段あるから」

「なにそれ…」

そう言いながらも1段ずつしっかり立ち止まって降りてくる先生は、世界一で1番可笑しくて、でも世界で1番可愛いかった。

「………玉森くん、どいて？
あと1段降りれないから。」

「うん、」

段差1段分だけ上にいる先生を、間近で見上げる。縮まった身長差のおかげで、先生の顔がすこぶる見やすい。

「……玉森くん、そこから動いて？」

「降りれないなら、先生が横にずれれば？」

「今、玉森くんに肩掴まれちゃったから、動けないの」

「そっか、ごめんね笑」

そう言って俺は、目の前で困った顔をした先生にキスをした。