夢を忘れた少女 (ページ1)

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「胡蝶様。ご夕食のお時間にございます。」

部屋の外から聞こえる執事の声。一日で一番憂鬱な時間が来ることを意味していた。

「………分かったわ。すぐ行く。」

勉強していた手を止め、執事に返事を返す。

そして、それから数十分した後、私はようやく部屋を出る。

ただっ広い家の廊下を進み、夕食の用意がされている部屋に着く。

夕食の用意されている部屋は和室。畳みに掛軸、そして、壺などが置いてある。

ここで夕食を取るのは私一人。

両親はすでに他界しているし、兄弟なんていない。

四年前までは二人、私と一緒に食べていた子もいたけど、もういない。

朝食、昼食にいたっては食べていない。

一人で食べても美味しくないというのが最大の理由だ。

后月胡蝶

それが私の名だ。

日本には美しい物を蝶に例える風習がある。

そうやって育ってほしいという両親の願いが名前になった。

「全然そんなふうに育たなかったよ……私。」

それが私の口癖。

夕食の時に一人になって実感するのだ。私は一人なのだと。

だからどうしても夕食になるとそんな言葉を溢してしまうのだ。