Tonight, tonight. vol.3 (ページ7)

今日:1 hit、昨日:0 hit、合計:20,512 hit

神々の砂時計2 ページ7

雨の日の―昼休み。
そこに何度も足を運んだ。
高校生だったときの、あの頃の私。

彼がフラッと教室を出ていくのを目で追って。
お昼ごはんのお弁当を慌てて食べた。

いつも一緒の友人が怪しむといけないから。
「図書室に返す本があるの」とか。「課題のノート、先生に提出し忘れちゃった」とか。
その場その場でついた小さなうそ。
それは決まって・・・雨が降った日の昼休み。

そう、決まって。
決まって雨の日の屋上にはあの子が―いて。
歌を歌っていたっけね。

そのことを知ったのは偶然だった。

学園祭が終わった後に、クラスの出し物の看板を屋上の倉庫にしまいに来て。
彼が―同じクラスのｷﾑ・ｼﾞｮﾝｳﾝくん、が。
屋上階段の踊り場で、少しだらしなく座り込みながら歌っていたのを―ホントに偶然。
聞いてしまったんだっけね、私。

屋上といえば、晴天の日に関しては生徒たちに人気の場所で。
そこでお昼を食べたり雑談する子たちもいれば～。
たまに先生が煙草を吸いに来てたり。

だけど、雨が降ったらそんな場所も。
人が寄り付かない閑散としたものになって。
そこで―あの子はいつも。一人で歌ってた。

あの子が歌っていた歌の題材は、日によってまちまちで。
この国の老若男女誰もが知ってる歌謡曲のときもあれば。
そのときに流行していたドラマの主題歌だったり。
洋楽や、童謡のときもあった。

あの不良少年のようだったｷﾑ・ｼﾞｮﾝｳﾝくんが。
実はこんな歌声を持っているということを―知れたことが。
意外でもありながら～少し嬉しくって。

そして雨の日という限られた時に屋上に行けば、その歌声を聞けることを知った私は。
誰にもそれを口外しないまま・・・当然、ｼﾞｮﾝｳﾝくん本人にも。
そこに何度も足を運んだっけね。

ずっと階段の裏に隠れながら。
ほとんど話したこともない、あの子の歌を聞いては。
あの頃の私は何を・・・思ってたっけね？

YS「どうして・・・それを」

私はｼﾞｮﾝｳﾝくんが、「ｷﾑ・ｼﾞｮﾝｳﾝ」くんになってたことに。
多分気付いていたけど～～それがあまりに自然で。
今の彼と、あの頃の彼。そのどちらに話しかけているのか～わからなくなってた。

「ｼﾞｮﾝｳﾝく～ん・・・」

YS「・・・？」

「ねぇどうして？どうして、みんなの前で歌おうって思わなかったの？」

「どうして」の主導権を、彼から奪った私。

彼だけじゃない。
私も・・・雨の日のあの匂いを。
きっと思い出していた。