デロリアンの向かう先-YS ページ6
昔話はさっきからしている。
ここに来てもうずっと。
こうして酒の力を借りなければ、二度と対峙したくないとも思えた―
あまりにガキだった時分の俺自身と。
思いがけず今夜は向き合う羽目になっていて。
しかしそれは、Aの言葉により引き出されるものだからだろうか。
不思議とそういうのも悪いものじゃないと思える俺もいて。
だというのに。
「あの頃・・・歌ってたよねぇ。雨の日の屋上で」
彼女がポツリと発したこの言葉に。
突如として俺の目の前に。頭の中に。
驚くほど強烈な風景が―呼び覚まされる。
ザーザーと降りしきる・・・雨。
その雨がコンクリートの上を跳ねた瞬間の、水しぶきの形状。
薄暗くて湿気てたが・・・いつもいたあの階段の踊り場。
風景だけじゃない。
あの場所のどことなくカビくさいような匂いまでもが。
それでもそんなものすら・・・愛おしいと思っていた当時の記憶というか感覚、が。
ストロボ写真のように。有り得ないスピードで降ってわいて。
YS「・・・っ」
気付けば俺は、自分でも知らず―口元に片手をあてがっていた。
寒いわけでもない。酒にやられたわけでもない。
だけど全身が一気に粟立つのを・・・感じずにはいられない。
俺は。
そう、俺は・・・好きだった。
雨が降った日のあの場所が。
雨雲が流れていくのを見るのが好きだった。
静かで誰もいなくて。雨の落ちる音しか無くて。
その音だけに包まれながら―歌うのが。
俺は・・・好きだったんだ。
な・・・んだ。これ。
俺は本当に・・・タイムスリップでもしてしまったのだろうか。
それともA、君は。
俺のかつてのクラスメイトを装いながら。
君自身がもしや―
「私、知ってるんだぁ。ジョンウンくんが雨の日はいつもあそこで歌ってたこと^^」
―妖精か何かなのか?
と、口に出る前に。
視界に飛び込んできた―少女のような笑顔。
ぞわぞわとしていた感覚が途端に和らいで。
俺は息苦しさから解放されて。
そうだ・・・いつの間にか、だが。息が速くなっていた。
だけど、それも少し落ち着いて。
俺は―
YS「どうして・・・それを」
彼女に問い質してみたいような、聞きたくないような。
そんなどちらともつかない思いから。
Aへの視線を―逸らしていた。
今ここに、鏡やセルフィ―レンズでもあれば俺も知れただろうさ。
自分が・・・嫌で嫌で仕方なかったあの頃の俺と。
似たような顔つきをしていたことに。
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作者名:Mercury zero | 作者ホームページ:http://ameblo.jp/mercuryzero/
作成日時:2019年11月11日 21時