前世で鬼殺隊の一隊士だった私は今世でも一生徒として過ごしたい

思い出す ページ3

｢いってきまーす｣

それから私は笑顔で家を出た。


だが心の中は全然穏やかではない。

もう既に胃が痛い、帰りたい。


私には前世の記憶がある。

生まれた時からあった訳ではなく、つい最近思い出した。




▽

数日前、母に食パンのおつかいを頼まれて、生まれて初めてパン屋さんへ行った。


人見知りが激しいためおつかいは気乗りしなかったが、店のドアを開けた瞬間考えが変わった。

パンの焼けたいい匂いがやわらかく鼻腔を満たし、目の前には美味しそうなパンが並んでいて_______。


｢ほげぇ…｣


あんぐりと口を開けて立ちつくした。

すごい……これがプロか。並んでるパンが一つ一つ宝石みたいにきらきらしてる。

ご飯派だけどパン派になりそう。


｢いらっしゃいませ！｣

男性に声をかけられた。


はっ、店員さん！！！！！

このパンを作った人だ！

声が聞こえた方に意識を集中させる。


｢……へ？…｣

頭が真っ白になった。

そこには鬼殺隊の後輩がいたのだ。


え、鬼殺隊…ってなんだ？

咄嗟に頭に浮かんだ3文字。だが全く聞き覚えがない。

酷い耳鳴りがしてズキズキ頭が痛む。

思わず顔をしかめた。


｢…間違えましたっ｣

訳が分からなくなって、ささやくように言った。

それから店を出て、家まで猛ダッシュで帰った。




家に帰ってから色々と思い出した。

鬼殺隊にいたこと、そこで出会った人のこと、自分の最期のこと。


前世の職場では周りに濃いキャラ、濃いスペックの人が多すぎて随分と振り回された。

今世では程々の濃度のキャラ、スペックの人に紛れて生きていきたい。


そう決意した所で気付いた。


あのパン屋にいたのは竈門炭治郎だ。

炭治郎がいるなら禰豆子ちゃんもいるだろう。

それにあの二人もいるのでは……！？


それに突然、落雷のように自分がこれから入学する中高一貫校の名前を思い出した。

キメツ…学園……。

鬼滅！？

鬼を滅するって意味なの！？！？



その意味なら、もしかしたら竈門君以外にも前世の仲間がいるのかもしれない。


サッと血の気が引いた。

私は今世でもあの人達に振り回されるのか？？

蝶屋敷でのことや、柱稽古を思い出す。



｢徹底しなくては…！｣

モブを徹底しなくてはならない。

空気にならなくてはならない。

せっかく平和な時代に生きているのだ。

前世で、ただの一隊士だったのにも関わらずあのしんどさだった。

今世ではのんびり過ごしたい！！！

いい事もある→←＊彼女のこと

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