バイオレットは考える ページ30
.
ひとしきり抱き合うと、彼等は部屋へと帰路に着いた。そろそろ朝食時、一般兵が通りかかる時間。名残惜しいが一先ず別れなければない。身体を離すと、いやいやと首を振るのでお詫びに額に口付けすると満足したかの様に、頬を染めて手を小さく振っていた。甘えん坊な所は昔と変わらない。Aは暫し喜びに浸っていた。
窓の外を見ると、明るい陽光が部屋へ差し込み、風がカーテンを揺らしていた。鳥の囀る音。心地良い静けさが辺りを充満していた。
『良い所ね…』
リスタールでは絶えず暴動が起き、その度に軍隊が鎮圧していた。だが元は軍人達も貧しい農村の出。農民達を殺すなど出来るはずが無い。人々の悲鳴、嘆き、怒り。全ての感情が音となって聞こえて来る。Aは当時は耳を塞ぎやり過ごすしか術が無かった。
本当にあのまま国を捨てて来て、良かったのか。
───それに、結局言い出せなかった
未だ行方不明のままのロベリアの髪飾り。唯一無二の大切な物。我々国にあるのだと言い回しからも予想は付いていたが、本当にあの男が持っているのだろうか。どこの誰とも分からない女の髪飾りを、七日も傍で保管しているはずがない。彼が優しければ届けを出してくれるだろうが、最悪は…捨てられてしまったか。Aはぶるりと身震いをした。
Aが思考の海に耽っていると、コンコンコン、と軽やかなノック音が響いた。
慌てて身なりを正し、彼女は扉を開く。
『ご機嫌よう。準備は出来ております』
そこに居たのはA専属のメイド、ジェーンだった。
黒のワンピースに白いエプロンを揺らし、ジェーンは悠然と挨拶をした。
｢ご機嫌よう、A様。朝食のお時間になりましたので、お迎えにあがりました。幹部専用食堂まで御案内致します｣
ぴくとがひらりと挨拶をすると、彼の傍に控える召使、カイルが訝しく頭を下げた。
｢君達は中へは入らないの？｣
｢私共は準備と業務がありますので｣
簡潔にジェーンは答える。使用人は共に主君と食事を摂らない。これはどの国も同じなのだろう。それに、彼等の仕事を奪ってはいけない。
｢では、こちらへ｣
ジェーンとカイルはA達の一歩後ろへ控え、歩き出した。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 900人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
おつ2(014785wmwi) - 最高だからハッピー○ーンの粉を決めようぜ☆ (2020年7月31日 18時) (
レス) id: b32bfe3549 (このIDを非表示/違反報告)
べす - 朝霧さん» 良い所で焦らすのが趣味ですので()まだまだ物語は続きます！是非またご感想を楽しみにしております！ (2020年7月18日 17時) (レス) id: b38f87aa2d (このIDを非表示/違反報告)
べす - サブ垢での返信御容赦を。思わず笑っちゃいましたｗｗｗ再会してからが本番ですので！ (2020年7月18日 17時) (レス) id: b38f87aa2d (このIDを非表示/違反報告)
べす - 椿さん» うへへへとにやけてしまいそうな内容にするつもりですので、今後とも宜しくお願いします！ (2020年7月18日 17時) (レス) id: b38f87aa2d (このIDを非表示/違反報告)
朝霧 - いいところで、あぁ、うぁ、下の人と同じですまる (2020年7月17日 19時) (レス) id: dd19b1c917 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ベス | 作成日時：2020年7月11日 9時
