悪夢の様な幸せなゆめ ページ25
.
夢を見ていた。
色欲や血の温度などを知らない、無垢だったあの頃の夢。
Aは庭園の中で佇んでいた。
『懐かしい夢ね』
久し振りに見る風景に彼女はそっと目を閉じる。
瞼の裏に浮かぶは今はもう戻らない日々。稽古に追われ、最愛の弟との時間をあまり取る事が出来なかった。
──待たせてばかりね…最後まで
目を開くと、仲睦まじく今Aが立っている花畑に座り込む二人の子供が目に入った。
｢ねえさま！見てください！ぼく、にがてなざがくのしけん、ごうかくしたんですよ！｣
ショッピが嬉しそうに丸めていた合格証書を広げる。
合格を認める、と仰々しい字体で書かれている書を見て幼き日のAは微笑んだ。
『えらいわね。この試験はとってもむずかしくて、姉様もとてもくろうしたのよ。良い子、良い子』
柔らかな栗毛を優しく撫でると、弟は頬を染め嬉しくて堪らないとでも言う風にはにかんだ。
彼等は血が繋がっていない。元々はショッピは分家の養子、跡継ぎに恵まれなかったエイザー侯爵が子供を引き取った為だ。その子供がショッピ。貴族は分家から養子を取るのに別段珍しくはなかった。
─ああ、あんなに可愛らしい表情が見れるなら…もっと褒めて、遊んでやれば良かったわ
今すぐにでも抱き締めたいのに。何故かこの身体は動かない。地面に縫い付けられたかの様に指一本も動かす事が出来ないのだ。
｢嫌です！俺をおいていかないで。一人にしないで！｣
所変わって、夜の闇に包まれた蝋燭が灯っているだけの部屋。同室で寝るにはそろそろ甘えだと言われてしまう年頃。
『お願い…ここに居てちょうだい。一番安全な所なの。外へ出ては危ないわ』
懇願した風な声色で少女は語り掛けるが、少年は聞く耳を持たない。
｢どこにいくのですか…？義父様も、義母様もいなくなって。姉様も…きえてしまうのですか？｣
『…消えないわ。ここから出ちゃ駄目よ。良いと言うまで、暗くても我慢してちょうだいね』
少年はぽろぽろと涙を零し、首を振る。少女はそんな少年の手を引っ張り立たせ、クローゼットの中へ押し込んだ。
｢い…嫌だ！姉様！置いていかないで！｣
『…ごめんなさい』
トン、と少女は少年の首裏を叩くと、彼の小さな身体はくたりと力が抜けた。
そんな少年をAは支えると、クローゼットに寝かせた。
彼には出る方法を教えてある。目覚めれば自らの力で脱出するだろう。少女は蝋燭が消え真っ暗な子供部屋を飛び出した。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 900人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
おつ2(014785wmwi) - 最高だからハッピー○ーンの粉を決めようぜ☆ (2020年7月31日 18時) (
レス) id: b32bfe3549 (このIDを非表示/違反報告)
べす - 朝霧さん» 良い所で焦らすのが趣味ですので()まだまだ物語は続きます！是非またご感想を楽しみにしております！ (2020年7月18日 17時) (レス) id: b38f87aa2d (このIDを非表示/違反報告)
べす - サブ垢での返信御容赦を。思わず笑っちゃいましたｗｗｗ再会してからが本番ですので！ (2020年7月18日 17時) (レス) id: b38f87aa2d (このIDを非表示/違反報告)
べす - 椿さん» うへへへとにやけてしまいそうな内容にするつもりですので、今後とも宜しくお願いします！ (2020年7月18日 17時) (レス) id: b38f87aa2d (このIDを非表示/違反報告)
朝霧 - いいところで、あぁ、うぁ、下の人と同じですまる (2020年7月17日 19時) (レス) id: dd19b1c917 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ベス | 作成日時：2020年7月11日 9時
