観音坂先輩の魅力発見日記。

３. 観音坂先輩は優しい。 ページ6

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あー、また書類にミスがあったのか。耳に届く課長の小言を防ぐように、少しだけ大袈裟に耳を塞いでみせた。

このブラック企業の一番の原因といえば、此処営業課の課長だろう。いつも脳内でハゲ課長と呼んでいるわたしは間違っていないと思わせる、照明を反射する寂しい頭と、誰かに文句をつけなければ生きていけないのかと思う程細かい着眼点。細すぎてミスとは言えないところにまで理不尽に文句を言ってくる。この課長にストレスを抱いている者は恐らくこの課にいる全員だろう。
そんな課長は今日も今日とて小言を言っている。その標的になっているのはわたしと同期に入社した、隣のデスクの小林くんだ。とても明るくポジティブな性格から営業という仕事は天職と言える。だが書類整理など頭を使う細かい作業は苦手なようで、ミスも度々。観音坂先輩に次いで課長のお小言を受けやすい人間だ。




｢ また書類かよー……いい加減営業行きてえんだけどなー ｣

｢ 小林は外出るの好きだねぇ。わたしは全然書類整理やってる方が楽なんだけど…… ｣




人と話すの得意な訳じゃないし。そう言うと小林はじゃあなんで営業課なんだよ、と言って笑い飛ばした。別に好きで営業課に入った訳では無いのだけど。医療系の企業に入りたいと思ってたらたまたま営業課に回されただけで。まあ今となっては観音坂先輩と同じ課という嬉しい事実があるからいいのだけれど。

小林とそんなたわいもない会話をしながら手を動かす。この書類は来週の木曜日までで、この書類は金曜日まで。どちらか先に済ませておこうかな。
私たち新人に回ってくる書類の殆どは、締切日に課長に渡すのではなく、その前日に上司に渡さなければならないものだ。新人の教育係としてついてくれた上司が課長から仕事を受け取り、わたしたちに回す。そしてわたしたちはその仕事をこなし上司に提出する。その後上司がチェックをして課長に出すのだ。この流れが滞りなく行われる為には、わたしたち下の人間が期限のチェックを怠ってはならない。課長に提出できなければ、仕事を任せてくれた上司にも迷惑がかかるからだ。




｢ なあ日下部、此処の文なんだけどさ…… ｣



その点においてこの男は大丈夫なのだろうか。わたしは提出期限を忘れないよう付箋に書いてパソコンに貼っているが、小林のデスクにはメモの痕跡は見られない。本当にやるべき仕事を分かっているのだろうか。


そんな心配をしていると、音が届いた。

怒鳴り、声だ。

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