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まさかまだわたし以外に人が残っていたとは。それも、観音坂先輩。確かに前も言った通り観音坂先輩はあまり要領がいい方ではないし、その癖に人に優しすぎて仕事を請け負いすぎる所がある。残業もほぼ毎日のようだし、今日のように遅くまで残ることもあるだろう。
けれど、もうとっくに他の人は帰っているものだと思っていた。最後まで仕事をしていた、という優越感が少し薄れたような。
観音坂先輩はへらりと笑ってから、自分のデスクに向かって歩を進めた。腰を下ろすその動作は、心做しか普段より遅い。一連の様子を眺めてから、ハッと我に返り自分の手元に視線を戻した。
仕事を再開して、訪れる沈黙。ひとりきりのオフィスは雰囲気が暗くて怖い、と思っていたけれど、観音坂先輩とふたりきりのオフィスはもっと居心地が悪い。あまり気にしないと心に決めたのはつい先日のことなのに、やけに緊張してしまって思うように手が動かない。こんな沈黙、味わいたくなかった。そんなわたしの心を汲み取るように、観音坂先輩が小さく声を漏らした。耳を澄まさなければ聞こえないようなボリュームだけれど、邪魔のない今のオフィスには充分すぎる。
「 ……日下部さん、気まずい、とか思ったりしてるかな 」
「 そ、それは……思います、けど 」
そっかあ、という声はどこか寂しさの色を滲ませている。どういう意図があってその言葉を口にしているのだろうか。どうして、今このタイミングで口にしたのだろうか。わたしにはいくら考えても分からないのだろうけど、考えなければどうにかなりそうだった。
「 ……申し訳ないなあ、と思って 」
「 ……は? 」
「 おれは、いっつもこうだから。自分の感情を優先してしまって、中途半端に相手のことを考えて、結局相手も自分自身も傷付いてしまう 」
歳だけ重ねても、不器用なんだよな。
ずっと、と浮かべた薄い笑顔から目が離せなかった。
何を、言いたいんだろう。わたしに謝りたいのだろうか。申し訳ないという言葉は、観音坂先輩の口から何度だって聞いた。飽きるほど、聞いたよ。だけど、観音坂先輩の伝えたい思いはそれではないのだろうか。
あの日、突き放して欲しいと言ったわたしを引き留めたくせに。中途半端な言葉でつなぎ止めたくせに。いざとなったら自分は弱いからと、逃げるのか。そうじゃない。わたしは、観音坂先輩にそんな思いになって欲しいんじゃないのに。
ほんとうに、この人は何にも分かってない。
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葡萄爽希(プロフ) - どっぽちん…君は最高にかわいいよ!!!! (2022年10月4日 21時) (レス) @page45 id: d897661d77 (このIDを非表示/違反報告)
y - オリキャラ出すなら注意書きしてほしかった… (2022年5月7日 8時) (レス) @page15 id: 103c948e3e (このIDを非表示/違反報告)
ヒプマイ好き推し決められん - どっぽちん…お前可愛いかよ…(((((殴はっ!!!(`°A°´)し…死ぬところだった…ヤバイヤバイ((汗 良い作品ありがとうございます!!!応援します!!!頑張ってください!!!!!!! (2021年5月16日 15時) (レス) id: 9f95d8689d (このIDを非表示/違反報告)
ゆきごん - ステキな作品をありがとうございます…!!どぽちん可愛い…!! (2019年10月2日 1時) (レス) id: e69c1b6ddb (このIDを非表示/違反報告)
ましろ.(プロフ) - れをさん» コメントありがとうございます。最後までお読みいただき、また独歩くんと夢主ちゃんを見守っていただき本当に有難いです。完結できたのも読者の皆様のおかげだと大変嬉しく思っております 。○ 最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。 (2018年11月25日 8時) (レス) id: c3377e09aa (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ましろ. | 作成日時:2018年10月12日 17時