対処法99 ページ8
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それはまるで、蒼銀の月の様な澄んだ声だった
夜空に浮かぶそれを、私は夢でも見てるような気分で見上げる
異常な程に大きく見える月を背景に、深雪のようなマントが翻っていて、花びらの様に見えた
『‥‥‥怪盗、キッド‥‥?』
月下の奇術師が、フェンスの上から私を見下ろしている
キッドは一瞬、探偵を前にした時の様な不敵な笑顔を浮かべると、タキシードの襟から銀色に光る銃を取り出した
あれはトランプ銃だ
シュンッ!と鋭い音を立てて私とストーカーの間に降ってきたそれに、ストーカーは慌てて私から距離を取る
キッドはその隙に私の前に降りてきて、私の方に向かって、世界中が魅入られるような素晴らしいお辞儀をしてみせた
「可愛らしいお嬢さん。すぐに終わらせるので、ご安心を」
『え』
次の瞬間、キッドが放った煙幕で何も見えなくなった
『えっ!? ちょっ、』
キッドは身のこなしは軽いけど、肉弾戦は余り得意じゃなかった筈‥‥!
しかし、数秒後にはれた煙の向こうには、すでにワイヤーで拘束されたストーカーがぐったりとのびていた
そ、そうだよね‥‥不得手っていっても、相手が蘭ちゃんとか京極さんとかの話だったらだよね‥‥一般人に負けるわけないか
未だ座り込む私の方をくるりと振り向くと、キッドは片ひざを‥‥逐一洗練された動作で‥‥私の前についた
「お怪我はありませんか? お嬢さん」
『‥‥あ、え‥‥と』
急な推しを前にフリーズしていたが、話しかけられてどっと冷や汗がのぼってきた
安心してたから、完全に油断してた。キッドが来てくれなかったら、間違いなくあのまま締め殺されてた
ニャア
か細い声とともに、叩き付けられた拍子に怪我をしたのだろうか。片足を引きずって寄ってきたヒカリが、私の手をペロペロと舐めた
そうだ。ヒカリが数秒でも時間を稼いでくれなければ、キッドは間に合わなかったかもしれな
い。ヒカリがいてくれなかったら
そう思うと、恐ろしくて、情けなくて、どうしようもなく不甲斐なくて、ヒカリを胸に抱き込んだ。視界の輪郭がじんわりと境界線を無くしていって
『な、んで‥‥こんなことになってんだろ』
「‥‥」
『二人いたとか聞いてないし。 なにもしてないのに‥‥悪いことってどうして重なるの』
「お嬢さん」
ヒカリを抱き抱えたまま膝の頭に顔をうめ、心の底でずっとよどんでいた思いを吐露する
どろどろに歪んだ悲観的な思いだ
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あ - 面白くて一気見した者です、もう更新されないんですね、この感じだと……。残念です (5月4日 12時) (レス) id: a4dff3124d (このIDを非表示/違反報告)
レモン - めちゃおもろいです!!夢主ちゃんの性格大好きです!更新楽しみにしてますっ! (12月12日 10時) (レス) @page43 id: 18ff82607c (このIDを非表示/違反報告)
はる - 初コメ失礼します!!この小説大大大大大好きです!!これからも頑張ってください!!応援しています!! (11月14日 20時) (レス) @page43 id: 41084e4d77 (このIDを非表示/違反報告)
あまね(プロフ) - イヤァァァァアオワッタ好きですで (9月18日 15時) (レス) @page43 id: 2b125e9969 (このIDを非表示/違反報告)
猫目 - すごく好きです (7月15日 14時) (レス) @page43 id: 5daa8eb0a9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:りんず | 作成日時:2019年12月28日 20時