面影と冬と水音と『真人』

3,匣の中 ページ3

似ている,と言ったがしかし｡彼女は何時かの老人とはどこまでも違っていた｡

彼は視力も何もかも失い､世の中に失望し､人目にもロクにつかない様な場所で溝鼠の様な生活をすることによって自由を知った｡
世界が本当に広い事も､自分達が自由さに欠ける事も。失う事でその事実をようやく知ったのだ｡

それに対してこの少女はどうだ｡
家族も金も家もあるらしい｡身体はどこも欠けていない｡顔もそこそこ…いや､相当整っている｡
その上彼女は現に｢学校｣や｢社会｣という箱に閉じ込められているのだ｡
それでも尚彼女は世界の広さを受け止め､紛れもなく自由を手にして生きている｡
何故だろう｡
何故彼女はこんなにも穏やかで居られるのか｡
真人はその理由がどうしても知りたかった｡

｢君は何故そんなに自由なの｣

｢何故もなにも､私がそう在りたいと思うからよ｣

｢でも他の人達は君みたいに居られないものだよ｣

｢そうね､他の皆は誰もこの世界の広さを知らないわ｡空の青さも自然の美しさも｡勿体ない生き方をしていると思う｡｣

｢君は何故それを知ってるの｣

｢貴方は質問ばかりね｡気が付いたら知ってたのよ｡｣

そう言って彼女は笑った｡
その笑顔は妙に作り物臭くて､矢張り魂は何の動きも見せていなかった｡

不思議な娘だな＿＿＿＿＿

と｡

心底思った｡





橋の下で見知らぬ少女と過ごした一時｡
それは自分にとって普段より何倍も濃い時間であったことに､真人は彼女と別れてから気が付いた｡

｢気になるんだよなぁ…何か｡｣

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