長男要らない説【松】

sixteen side.cyoro ページ21

A兄さんの身体がグラリと揺れ、
僕の目の前に倒れ込んだ。


兄さんの真後ろには、ゼオがいた。


兄さんの目の前にいた
ゼオは、恐らく幻覚だ。


ゼオだって能力者だ。
この世界にいるってことは、絶対に。


ゼオの能力は、
幻覚を見せるようなものなのだろう。


A兄さんが吸ったのは
眠剤とかの類いだと思ったが、
どうやら違うらしい。



「っうぁ".........は、ぅっ........っはぁ.......はぁ..........」



A兄さんには、意識があった。
多分吸ったのは毒だ。

胸を抑えて苦しげに、
浅い呼吸を不規則に繰り返していた。


ヤバイ、ヤバイよこれ！！
A兄さんが連れて行かれちゃう！！


そうは思っても、
さっき食らった蹴りが重すぎて、
意識がどうしても朦朧としてしまう。


内心でクソ野郎、と毒づく。


兄弟関係を軽く揺るがせて、
その隙を狙って俺を攻撃しやがった。

とんだゲスだ。


どうしよう、今動けるの
僕しかいないのに.........！！


ゼオがA兄さんを担ごうと手をかける。

兄さんはそれを力を振り絞って
パシッと振り払った。

ゼオはそれに舌打ちをして、
容赦無く兄さんの腹を蹴り上げた。

A兄さんは呻き声を上げて、
糸が切れた様に意識を失った。

ゼオは今度こそ兄さんを担ぎ上げ、
その場を去ろうとした。



「っ、待てよ........！！」



兄さんがあんな状態で抗ったんだ。
僕も何かしなくちゃ。

そんな義務感で、
精一杯力を振り絞って立ち上がった。


幸いな事に、ゼオは立ち止まってくれた。


足はガクガクして使い物にならないし
もう意識飛びそうなくらい
辛いんだけど.........。



そっとポケットに手を入れて
スマホを、感覚だけで操作した。



能力さえ発動すれば.........！！



「A兄さんを離せ.........！」
「はぁ.......君に何が出来る？」
「うるさい.........！！」



ここは森だ。僕にとって十八番な戦場。
少しでも足止め出来れば........！


手をスライドさせ、
木の枝を急速に成長させて
枝をしならせ鞭のようにして
ゼオ目掛けて振り下ろした。



_____でも、もう前のゲームもあり、
蹴りのトドメで限界だった。



ゼオにとってスロースピードなそれは、
いとも簡単に避けられた。

ゼオが一瞬で移動して、
僕を思いっ切り蹴り飛ばした。


家にぶつかり、崩壊させ、
家の中まで吹き飛んできた。




支柱を失った木材が、
僕目掛けて勢い良く迫っている
景色を最後に、僕は意識を失った。

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