主人公が嫌いな話 ページ1
小さく電灯がついただけの部屋を照らす画面の中では、傷だらけの主人公がボスを倒すシーンが再生されている。
初めて見るアニメなのにどこか見飽きたその情景に、それでも憧れを抱かずにはいられない。
最近流行りのアニメはみんな似たような内容、とネットで大人ぶって発言をしても、結局全部見ている私はひどく滑稽だろう。
平凡だった主人公が成長していく様に感動できるのは綺麗な人間だけ。私みたいな人間には、粗探しの種となるだけだ。
平凡と言いつつもアニメらしく顔立ちは整い、いかにも主人公らしく仲間思いな自己犠牲心の強さ。
何が平凡だ。謙虚ぶってんじゃねえよ。
私だって、素直に憧れを抱いていた時期もある。たくさんの仲間に囲まれて、勇気を出して敵に立ち向かう姿にどれほど心を動かされただろうか。
現実はそうはいかない、とわかってしまったのはいつのことだっただろうか。背伸びして手を伸ばせそうな距離にいたはずの友達たちは、いつのまにか画面の中にしか存在しない幻影と化していた。いや、そうだと知ってしまった。
この社会では人を蹴落として自分が上に立つのが最適解。
可哀想なヒロインがそんなことを言ったら、正義感の強い主人公はなにか感動的なことを言ってくれるに違いない。今の私には、元気づけるどころか同意も反対もやってこない。
「あなたはあなたの人生の主人公」。だから何?全員が全員主人公らしく生きられるとお思いで?
全部否定したいわけじゃないんだ。こんなの八つ当たりだって、わかってるはずなのに。
強くて優しい人間になりたかった。誰かを助けられる人間になりたかった。物語の主人公みたいに、かっこよく生きてみたかった。
……そういや、さっき見たアニメの主人公さんもこんなことを言っていたな。わざわざ主人公に言わせるあたり、「誰だって成長できるんだ」といったところだろうか。
くだらない。そんな簡単に言ってのけるな。そう言う自分の中に、それを望んでいる自分がいる。まだ純粋な感情が残っている。
必死に押し殺す。あんなものは偽物だと、その言葉はきっと誰よりも自分自身に言い聞かせていた。この私を認めてしまったら、今の醜い自分も認めなくてはいけなくなってしまうから。
悔しい。嫌だ。認めたくない。渦巻くどす黒い感情を映し出したように、電源の切られたスマホの画面が私の顔を映す。
電源をつけ直して別の作品を再生する。まだ、夜は明けない。
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
シズヤ(プロフ) - また楽しみにしていますね (2月23日 18時) (レス) @page2 id: 77276ee3b4 (このIDを非表示/違反報告)
まかろん(プロフ) - シズヤさん» コメントありがとうございます!これからも頑張って書いていきます! (2月21日 20時) (レス) id: 7a5bfe9b37 (このIDを非表示/違反報告)
シズヤ(プロフ) - 素晴らしい (2月21日 20時) (レス) @page1 id: 77276ee3b4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:まかろん | 作成日時:2024年2月18日 10時