もう一人の、人斬り。【るろうに剣心】(加筆・修正中) (ページ11)

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第一話　平和と異変　拾壱。ページ11

その場所には一人の少女が何十にも連なる遺体を側から見つめるように、立っていたのだ。その少女はのちに被験者となる、『AA』なのである。

この報告書は墨で描かれている。きっちりとみっちりと彼は読み込む。
『しかし、この実験は間もなく失敗に終わった。効き目がほとんどなかったの結果、成功はしたが、実験によってAの体はボロボロに。

そもそも同じような実験を毎日のようにしているから、狂ってしまったのだろう。

まもなくこの実験自体はは永久凍結されることになるが、彼はこの実験をまだ続けるのだろうか。』

(これを書いた当時、まだ動乱の最中だったな……なあ、桂よ)

遺影に呼び掛けるが、当然反応がないことに、仕方がないというように顔を俯かせる。
東条と桂は幕末の志士どおしで、仲が良かったが、桂はその実験を知らなかった。
東条はこの実験を他人に知らせていなかったのだ。そりゃあそうだろう、知らせたら倫理の問題に関わってくるのだから。

『実験内容は多岐にわたるが、大まかに行われているのが、本体複製実験、いわばもう一人の自分を何体も作って、生物学的残虐な実験をさせるという代物。』

(あともうひとつは、前頭葉を取り出し、感情を遮断させることで、起こる作用を擬似的に記録する実験――――。

なお、リスクが予想されるので、その効果を最大限に引き出した薬を開発する予定だ――――この薬は幕末の時は使っていなかったな。でも、今度こそは……)

東条は研究記録の文の中にある薬の存在を見て、期待に胸を膨らませる。

しかし彼に最近変化が訪れている。勿論彼女に対する態度。
彼はこちらが辟易するほど親切で、Aに大して非常に過保護なのである。
今まで彼をみてきた人にとって途轍ない違和感を感じるくらいに。

東条はそう言ったあと、軽くため息をはいた。

『なおこの薬は三日で完成したのだ。だが、前日の試薬品として使った複製品は――――』
(三日……。これは嘘だな、実際作るのに何ヵ月かかったとおもうんだ)
東条は苛立ちを見せ、机をドンと掌で叩いた。そしてその文の続きを見ずに、読み進めていく。
『あともう一つは幕末の頃から頻繁に行われている、己の意思を消し、一定時間、汚れた仕事をすれば人間はどんな行動をとり、どんな仕事振りを見せてくれるのか、を記録するもの。』

東条とAの場合、これは人斬り、に当たる。

　『薬のタイプは錠剤と、注射器』