第五話 利用されるということ。陸。 ページ15
でもAには聞こえた。そんなことないわよ、という前にボソボソと、聞こえたのだ。
――Aさんばかり、剣心に気に入られて、ちやほやされてずるいな。
「え。薫？？」
Aが彼女の名前を呼べば、薫は慌てたように祭り会場へと一足先に走っていく。その姿を見た剣心はどうしたでござるかあ、薫殿！！ と言って後を追っていき、残りの二人、弥彦と左之助も競争のようなノリで、薫の後を追っていった。残るのは当然Aと恵だけだった。
その頃。
「行きました。Aたちは、今ここ連帯の地域で行われている伝統的なお祭り
一人、西洋から持ち込んだトランシーバーという機械を使って会話をする怪しげな女が、神谷道場にいた。
『そうか。俺の部下も向かわせる。そこであの作戦を。覚えているな。
「ええ。あの裏切り者AAを最終的に捕らえ、利用する作戦ですよね。そして、あの、薬、を……。」
『流石だ。頼むぞ。』
「承知いたしました。」
そう言うとブツリと通話が切れる音がした。それを聞いたあと、奈穂と呼ばれた女はほくそ笑んだ。
「ふふっ。あっははは。東条もバカね。最終権限はわたしにあるんだから。東条英機よりもわたしのほうが、上なんだからあ！！ 」
さて、のこりはあいつを殺せば。ふふっ、バカね。このあたしが東条というバカに協力するわけないでしょ！？ 利用するの。あいつを見つけ出し、東条を殺せば…日本は実質わたしの支配下に入る！！そのためには、
「薫殿！」
薫。薫という名前を連呼しながら走っている人だかりがひとつ。Aたちである。祭り囃子が響き渡り、一層人集りが増し、賑やかになっているこの会場で、ひときわ注目の的となってしまったのである。
「な、あれは、け、剣術小町の神谷薫さん！？」
「薫さん、て、手合わせをっ！！」
そう、薫のことを知っている他の道場の男どもが騒ぎ立ててしまったから、とにかく逃げて今に至る。現在は人通りの殆どない、祭り会場内の一本道に来ている。
この会場を包み込んでいるように遠方まで連なっている銀杏の木々の枝と葉が、皆を守るように儚げに揺れ、落ちていく。そんななか、祭り会場をひたすら走っていた脚が、ピタリと止まった。
「どうしたんだよ、お前。最近変だぞ。」
第五話 利用されるということ。漆。→←第五話 利用されるということ。弐。
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作者名：みーー | 作成日時：2022年10月3日 5時
