花を咲かせて。 ( 橙 ) (ページ11)

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花と紙袋と数個の道具を手に持ってエレベーターに乗る隆ちゃん、続くあたし。
隆ちゃんが5階を押す。

「接客業かぁ…こんな遅くまで大変やなぁ。」
眉を下げながらお疲れ様です。と言ってぺこりとちょっとだけ頭を下げる隆ちゃん。
その気持ちは嬉しいけどなるべく仕事については触れられたくないなぁ…

「でも流石に接客業だけやないやんな、それだけでこんな東京の一等地住まれへんやろうし。」
あぁ、やめて…そんな純粋な瞳をして聞かないで…

「あー、うん、あの、仮想通貨、やってて…」
一回だけやって250円しか儲からなかったけど…

「仮想通貨…」
神妙な面持ちでその言葉を発する隆ちゃんを見ると仮想通貨という言葉がまず引かれる対象なのではないかと思い始めてしまった。

自分でもわかるくらいに不自然な笑顔を隆ちゃんに向けてしまっている。

まずかったか…？

「仮想通貨って今流行りのやつやんな！億り人とか最近よう聞くし！…でもあれってリスキーなんとちゃう？くれぐれも気ぃつけてな。」

…なんとか誤魔化せられたようだ。
さっきは隆ちゃんの純粋さを恨んだけれど今は隆ちゃんが純粋なことで助かった。
隆ちゃんはきっと詐欺とかにすぐ引っかかってしまうだろうな。

安堵と共に顔に作り物でない笑顔が漏れてしまった。

「Aちゃん、かわええなぁ。」
脈略も無く隆ちゃんから発せられたその言葉にびっくりしてしまい、小さくえと呟いた。

「いやぁ、職業病かも知れへんのやけどさ、今この人にはこの花が似合うなぁとかこの花にそっくりやなぁとかいうのを思ってまうねん。」
「…隆ちゃんがあたしに一番最初に話しかけてくれた時、既にこの花君に似てるなぁとか言うてた。」
あ、マジで？恥ずかし。と顔をちょっと赤く染めてにこにこする隆ちゃん、なんだかとっても可愛い。

5階にエレベーターが着く直前、昨日と同じように隆ちゃんはまたなにかを呟いた。
「なんて言うたん？」
あたしが首を傾げて聞くと隆ちゃんはまたちょっとだけ恥ずかしそうな顔をする。
「あ、聞こえてた？エレベーターのアナウンスが5階ですって言う直前にそれは君のって言うねん。したら…」

「それは君の 5階です…あぁ、それは君の誤解です！」

せやねんせやねん～と微笑む隆ちゃん。
友達のリョウさんという人がこれを発見してからは隆ちゃんも毎回これを言うのを習慣にしてるらしい。

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