108話 ページ10
紅郎「……い……おい！A！！」
何度か呼び掛けられたのか、かなり声が大きくなってからようやく気づいて後ろを向くと、ものすごく心配そうな顔をした紅郎くんがこちらを覗き込んでいた
A「どうしたの？紅郎くん」
そうさらりと聞いてみると、一気に彼の眉間に皺が寄る
紅郎「どうしたもこうしたもねえだろ…それと、普通を装うんじゃねえよ。顔色悪いぜ？」
A「あ、本当？参ったな……みかに心配されちゃいそうだ」
ふふふ、と何もなかったかのように笑ってはみるが、彼の顔色は変わらないままだ
紅郎「……さっきの…あれ、誰だ？見知ったような口聞いてたが」
A「ああ、いやね。昔からちょっとした縁があって話してただけだよ」
紅郎「嘘だな」
ピシャリとそう叩き割るように言われ、今度こそどうしたものかと頭を働かせながら曖昧な笑顔を作って誤魔化す
紅郎「本当にたったそれだけの関係ならそんな顔色にもならねえし、そもそもこんな人が寄り付かねえところで話すこともねえはずだ。
もう一度聞くが、さっきのは、誰だ」
ああ、これはもうだめか。と、紅郎くんの鋭い眼光から察して肩を少しだけ下げる
A「流石に無理か。まあ、ちゃんと正直に話すよ。けれど、約束して欲しい。このことは決して誰にも言わないと。宗やみかには特に」
そういつもよりも真剣な声音で言うと、深刻なものだと言うことを察したのか「おう、約束するさ」とこちらもまた真剣な顔をして答えられた
逃げ場はないことを改めて認識して苦笑をこぼした後、キッと顔を引き締めて口を開く
A「………さっきの女性は…俺の、母親だ。あまりにも似てないから信じ難いとは思うけどね」
そう出来るだけさらりと打ち明けると、驚いたのか少しひゅっという音をさせて目を見開いていた
まあ、そうもなるだろうとは思っていたから気にはしない
母は闇よりも純度の高い濡れ羽色の髪に、見つめただけで飲み込まれそうになる真っ黒な瞳。
対して俺は生まれつき色素が作れない為、母とは違い真っ白な髪と色違いの薄めな色素で作られた双眸
似ていたとしても、多分所作であるとか肌の色くらいしかないだろう
それくらい、容姿についてはかけ離れていた
紅郎「……一応、それは信じるが……じゃあなんでお前はそんなに青ざめた？」
A「んー……家庭の事情、だな。詳しくは言えない」
あまり踏み込まれてしまったら危ないと思ってすぐに終止符を打つと、紅郎くんは少し息を吐きながら目を軽く閉じた
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 132人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：澪 | 作成日時：2021年2月17日 23時
