[は.た.さ.こ]ポーカーフェイス・コンプレックス[学パロ/実.況.者]

二十二通目 ページ23

その日の帰り道。
例の如く、私の隣にははたさこ君だけ。
は「何と言うか、凄いですね。
初めての舞台で、主役なんて。」
『主役って言うか、主役＜級＞なんだけどね。
本当の主役はうちの部長だし。』
は「大変、ですか？」
『そうでも無いよ！新しい事をするのは楽しいし！』
は「本当に、楽しそうですよね。
俺も何か、打ち込める事があったら良いのに。」
打ち込める事、かぁ。
『はたさこ君は得意な事ってある？』
は「得意な事…？」
『これなら負けない！とか、これなら一番！とか。』
彼はうーんと考え、やがて一言漏らす様に答えた。
は「…げ、ゲーム…かなあ…？」
『良いね、ゲーム！どんなジャンル？』
は「えっと…、レースゲーム、ですかね。
最近はTRPGとかも好きです。」
『かわぞえ君達ともやってるの？』
は「かわぞえ君とうばまろ君とはよく遊びますよ。
二人は家にも遊びに来てくれるし。
でも、なな湖君ととりっぴぃ君とは時々しか遊ばなくて。」
不意に出たとりっぴぃ君の名前に、体が強張る。
確かに日は経っているけど、
まだあの時の記憶と衝撃がフラッシュバックするんだ。
それを察したのか、彼は反射的に謝ってしまう。
は「ごめんなさい。名前、出しちゃって。」
『だ、大丈夫だよ！もう気にしてないから！
かわぞえ君とうばまろ君とはどんなゲームするの？』
明らかな嘘だけど、黙って重い空気を作るよりはマシだ。
私は無理矢理会話を繋ぎ、それと同時に
戻ってきた記憶を頭の片隅に押し込めた。

文化祭まで一週間。
とりっぴぃ君からのキスの衝撃がやっと薄れ始めてきた頃、
吹奏楽部の皆の演技や演奏も様になってきた。
「そろそろ、通しでやろうか。
本番の時間も考えて出来る所までね。
もし超えたら、超えた所からは明日に回すからそのつもりで。」
先生の指示に返事をし、素早く持ち場に着く。
練習とは言え、緊張するなぁ…。
私達が演技をするのは午後の部だけだから、暫くは演奏が続く。
呂律がちゃんと回るか心配。

通し練習を一通り済ませ、唇からクラリネットの吹き口を離す。
昨日までは曲ごと、及び演劇ごとの練習だったからか、
疲れの度合いが違う。
先生から労いの言葉を頂いた後で場を片付ける時に
私専属の演技指導担当の女の子と話す。
『ふーっ。やっと帰れるー！』
「本当にお疲れ様…。吹奏楽部の皆さんは
両方やらなきゃいけないから大変…。」
『一種の脳トレだよー。でも楽しい！』
彼女は少し俯きながらも、優しげな声でふふっと笑った。

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