二十通目 ページ21
それからの沈黙が痛い。
どうにかしたいけど、言葉が出て来ない。
尚も赤いままの彼の顔を見た途端、彼はハッとして手を離した。
は「ごめんなさい。嫌でした、よね…。」
『そんな事、無いよ。その…。
て、手を繋ぐのは、友達同士なら普通だし！』
は「小さい子ならまだしも、俺達そこそこ大きい歳ですよ…。それに…。」
『…それに？』
は「………な、何でも無い、です…。」
震える様な声で、赤い顔が呟く。
そしてまた、沈黙が私達を包む。
家までの道が見えてきたけど、敢えて素通りする事にした。
もしかしたら、まだ話せるかも知れない。
『ねぇ、はたさこ君。』
は「…はい。」
『その、今から言う事、他の皆には内緒にしててね。』
は「…分かりました。」
私は思い切って、今日の昼休みに起こったあの事を話してみる事にした。
は「そうですか。とりっぴぃ君が…。」
『うん。その時のとりっぴぃ君がすっごく怖くてさ。
でも、稲野君の彼女にそれを言ったら、
あの子も同じクラスの男子に同じ事されたんだって！』
は「あ、俺、昼休みに稲野君に会いました。」
『本当！？』
共通の友達がいると、何だか話しやすいよね。
聞けば、今朝のとある出来事から
稲野君は件の彼女と距離を取ってしまっているとの事。
『それってケンカって言うより、嫉妬だよね。』
は「そうかも知れないですね。」
『へー、稲野君も嫉妬するんだー！』
は「まあ、そんなイメージは無かったですよね。」
『はたさこ君は嫉妬しなさそう！』
は「し、しますよ俺だって…！」
せっかく戻っていた顔色がまた赤らむ。微かにだけど。
『あ、ここだったよね。』
は「あ…、はい。その、ごめんなさい。ここまで着いて来て貰って。」
『良いの良いの！私が勝手に着いていったんだから！
じゃあ、また明日ね！』
は「…はい、また。」
思い切って、話してみて良かったかも。
それに、稲野君がいて良かった！
それから数日後。
今年の文化祭の為に、今日の放課後から吹奏楽部の練習が始まる。
その為、はたさこ君や他の皆とは一緒に帰れなくなってしまう。
それだけじゃなくて、一緒に遊ぶ時間も少なくなってしまうかも知れない。
でも、皆に良い演奏と演技を観て貰う為だから頑張らなきゃ！
そんな放課後。
顧問の先生から本番までの予定表と楽譜、
そして演劇の台本を一つに纏めた冊子を貰って目を通す。
時間まで各自で練習をする事になるが、
その全てを読み込むのに時間を取られてしまった。
これ、間に合うかなぁ…？
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