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「ただいまー! ねーちゃん来たよ!」

「お邪魔します」


 玄弥君と草履を揃え、居間に上がると、彼の御家族が温かく迎え入れて呉れた。

 彼等の母親が台所から大鍋を持ってやって来る。とても華奢で穏やかな女性。
 私を見るなり相好を崩した。


「いらっしゃい、Aちゃん。今日の夕餉は鶏鍋よ」

「うまそー!」

「おい、座れよ就也」


 弟を叱る実弥さん。

 私と目が合うと、自分の横にある砂色の座布団を叩き、目配せした。
 其処に座れば善いんだね。

 指示通りに座ると、彼も他の子も、満足そうに笑った。


「じゃあ、食べよっか」

「せーの!」

「「頂きます!!」」


 遅れて、頂きます、と小さく呟いた。

 箸を持ち、鶏肉の欠片をつつく。
 口に運ぶと、ほろほろと崩れて旨味が口一杯に広がった。


「……美味しい」


 とても美味で温かかったので、思わず涙が出そうになった。
 何時もなら、此処に蟹が在ればもっと美味しい、と思うのだが。


「本日はお食事にお誘い頂き、有難う御座います。鶏肉、とても美味しいです」

「いいえ、こちらこそありがとう。それから、そんなに遠慮しなくてもいいのよ」

「親父のいねぇ時はいつでも大歓迎だぜ」

「家族みたいなもんだからな!」


 本当に、彼等は温かい。
 探偵社の時とは違う。胸の奥からじんわり熱くなってくる。

 こんな事は、初めてだった。


「ご馳走様でした。……いやぁ、本当に美味しかったよ。久々の鍋だ」

「……また、何時でも来いよ。お前細過ぎだからな。もっと食わしてやる」

「君はもっと筋肉付けなよ。そんなんじゃ、女の子にもてないよ?」

「うるせぇ」

「うふふ」


 此れが、幸せと云うものだろうか。

 私には判らないが、悪くないな、と思ってしまった。




* * *





 母親が帰ってこなくなり、もう半年も経ってしまった。

 別に、心配しているとか寂しいとかではないのだが、社会的な面で困る。
 人には、捨てられただの何だのと悪い噂ばかり立つし、何より生活費に困った。何時までも不死川家の世話に成る訳にはいかないし。

 なので、この町を発つ事にした。

 実弥さんや玄弥君には申し訳ない。
 一緒に居よう、と云って呉れたのに。

 荷物と云う荷物も無いので、只散歩に出掛ける様にして家を出た。
 宛先は無い。
 好きなようにぶらぶらと歩くだけ。

 前世から、独りで旅に出たかった。
 却説、面白い事は有るのかな。


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サブとバラ(プロフ) - 戯言さん» コメントありがとうございます!本当にお待たせいたしました。毎日とはいきませんが、更新停止にならないよう、少しずつ連載していきますので、どうかこれからも応援よろしくお願いします! (2021年4月1日 18時) (レス) id: 4ca3bc2d2a (このIDを非表示/違反報告)
戯言(プロフ) - 待ってました!!更新ありがとうございます!!! (2021年4月1日 18時) (レス) id: 2a27d057e9 (このIDを非表示/違反報告)
サブとバラ(プロフ) - Kuro4141さん» ありがとうございます!皆さんをお待たせしたくせして受験落ちるわけにはいきません……!イイとこ受かってお祝いの更新します! (2020年10月17日 22時) (レス) id: 89f5f989ea (このIDを非表示/違反報告)
Kuro4141(プロフ) - 気長にお待ちしております!受験頑張って下さい! (2020年10月17日 19時) (レス) id: 8db3a541f6 (このIDを非表示/違反報告)
常田(プロフ) - リヴさん» またまたリヴ様!! こうしてコメントを下さるのは何度目のことか……!! 嬉しい限りでございます!!!!! ありがとう!! (2020年4月26日 12時) (レス) id: 89f5f989ea (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:サブとバラ x他1人 | 作成日時:2019年10月19日 22時

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