昼の月 (ページ21)

今日:19 hit、昨日:4 hit、合計:227,694 hit

２１ページ21

「え…何…？」

何の事だか分からないと言う様に、北山は首を傾げて俺を見る

「色々…辛い思いしたって…」

俺がそう言うと、途端に表情を硬くして体を強張らせた

「ごめん。なんか北山の様子がいつもと違う気がして、ずっと気になってて…。俺が渉に無理やり聞いたんだ。」

「……そっ、か…聞い…ちゃったんだ…。」

北山の声が、震えてる…

顔を歪めて、今にも泣きだしそうな北山を前に俺は…何も言い出す事が出来ずに、ギュッと拳を握りしめた

「……軽蔑、しただろ？」

北山の大きな瞳からぽろりと零れ落ちる涙

「っ…そんな事っ…」

「旦那さんのいる人好きになって、人の家庭壊して」

「北山っ」

「挙句の果てに俺……男の人に…抱かれたんだよ…」

「北山、もうっ…」

「もしかしたら…人を…殺してたかもしれない…」

「止めろっ…」

気が付いたら…俺は…

北山を抱きしめて唇を塞いでいた

「んっ……ふっ…ふじっ…」

ぐいぐいと腕を胸に押し付けて抵抗する北山

顔を背けた北山を、逃げない様に強く抱き締めた

「旦那のいる人好きになったのも、脅迫に乗ったのも…全部、お前のせいじゃないだろっ」

「ふ、じ…がやっ…」

「もう…そんな風に自分を責めるの止めろよ…」

「…なんでっ」

「自分を傷付けてどうすんだよっ…どうして…北山ばっかり…っ…」

「藤ヶ谷っ…」

泣くな…

俺が泣いてる場合じゃない

そう思うのに、どんどん涙が溢れて来て止まらない…

抵抗するのを止めた北山を暫くそのまま抱き締めて、必死に涙と戦っていると、キュッと上着が背中で引っ張られた

「ふ…じ…がや………どうして…キ、ス…」

腕の中で北山が小さく震えてる

ずっとこうして北山を温めてやりたかった

俺の想いで…

「……好きだから…」

「え…」

「北山の事が、好きだから。」

俺の告白に、北山が体を離して見上げてくる

涙をいっぱいに溜めた大きな瞳が俺を捉えて、ゆらゆらと揺れる

「う、そ…」

「嘘じゃない」

「でも…」

「気付いたんだ。北山の事が好きだって。」

ポロポロと頬を流れる涙を拭ってあげたくて、そっと手を伸ばす

けれど、その手は頬にたどり着く事なく、宙を彷徨った

.