好きなバンドが死.んだ ページ2
その日の朝、加瀬Aは傍目から見てもかなり不機嫌だった。世界の裏側の人間が見ても「不機嫌」という程わかりやすい不機嫌である。
朝ご飯_ウィダーインゼリー_を咥えながら歩く登校道がこんなにも腹立たしいのは一体いつぶりだろうか。考えてみたところ、中学時代教師の愚痴裏垢を見つけた時以来であった。表向きでは散々「君は君らしく」なんて言ってただけあってかなり腹が立った。その頃と同等かそれ以上の腹立たしさである。
イヤフォンを無造作に耳に詰め、迷い無く好きな曲だけを集めたプレイリストを再生する。間も無く安心安全の「桜のダンス」が流れ始めた。
不機嫌と腹立たしいの根源たるCDは、昨日のうちにシュレッダーにかけた。ディスクも裁断出来るタイプでよかった。
最近出てき始めたインディーズ出身のバンド、「A.K.dot punk」。ギザギザしたギターに唸るようなベースが古き良きロックを感じさせて「これは売れるぞ!」と思った矢先の出来事だった。なんと新曲がまんま普通のJ-POPだったのだ。
再生した時の絶望感といったら無い。あの頃のギターもベースも何処へやら、そこにあるのは100均のお菓子みたいに安っぽい歌詞と、丸く研磨しすぎて消えてしまったようなギターベースだけ。きっとTikTokが大好きな学生はこぞって聴くだろう。「期待の新人!」とか言ってハイエナが群がり、惰性で残った古参ファンが「昔は良かった」なんて言う地獄が容易に想像出来る。昔も何も、昔にしか彼等は居なかったじゃないか。
あのバンドは死.んだのだ。僕の好きだったバンドは死.んだ。昨日は記念すべき命日である。
途端に腹立ちメーターが振り切って、道端にあったポリのゴミ箱を蹴った。中にいたらしい猫が「にゃあ?!」と此方に飛びついてきたので、なんとか落ち着いてもらって茂みに返した。
猫様の癒し度でいくらか気持ちが落ち着いたので、この気持ちのまま学校に行くことにした。プレイリストは三曲目、ヒトリエの「モンタージュ・ガール」が流れ始めた。
ラッキーナンバー
amazarashi「穴を掘っている」
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紅生姜 - 面白かったです!続きが気になります。 (2019年7月14日 16時) (レス) id: f997d5590d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:麦藁 きたる | 作成日時:2019年4月17日 18時