第5話 ページ6
太宰治とAは国木田独歩から伝えられた場所へ向かった。
海岸付近にある草花が生い茂った小さな公園。
その公園のベンチで座った状態で眠るようにして依頼人の娘は亡くなっていた。
「殺人でしょうか?」
「いや、殺人ではないよ。
抵抗した跡がまるでないからね。
それに外傷も見当たらない。」
太宰治は遺体を冷静に観察しそう述べる。
「では他殺ではないとしたら・・・
自 殺、ですか?」
「いや、病死だ。」
太宰治は確信を持ったかのようにそう断言した。
「病死、ですか。」
Aは病死だという判断にいまいち納得がいかない様子でそう呟いた。
「自 殺でも何かしらの抵抗の跡が見られるものなのだよ。
実際自 殺というものは心では死にたいと思っていても、いざすると本能が生を求めるからね。」
Aの考えている事を読み取ったのか太宰治は冷静にそう述べた後
「自 殺マニアである私には簡単な事さ。」と言った。
「成程。理解出来ました。
ですが何故彼女はこのような人目のつかない場所に?」
「ここで死ななければならない理由があったから。」
「その理由とは?」
「それは今から向かう場所で説明するよ。」
太宰治はそう言ってニヤリと笑った。
「依頼人の元へ行くのですか?」
「あぁ。彼女の行方をきちんと報告するのが今回の仕事だからね。」
「・・・そうですか。」
Aはそれを聞いて少し胸が締めつけられる様な感覚を感じた。
「・・・?」
だがAはその感覚が何なのか理解できなかった。
『立ち塞がる敵は殺せ。
人の想いなどお前にはゴミ屑に等しい。』
そんな時、何故か昔言われた言葉を思い出した。
(さっき感じた、締めつけられる様なものが想い・・・?)
そもそも想いとは何だ?
今のが想いだとして、私にそれは不要ではないのか?
思考の迷宮に陥るA。
何だこれは、気持ち悪い。
答えの見つからない自分自身への問いに呑まれ気分が悪くなっていた時だった。
「A!!」
突然太宰治に大きな声で名前を呼ばれ、ハッと我に返った。
そして反射的に太宰治の顔を見た。
「・・・具合でも悪いのかい?」
Aの様子を不思議思った太宰治は少し心配そうに彼女にそう尋ねた。
「・・・いえ、失礼しました。
少し考え事をしていました。」
「ならいいのだけれど。
ほら、早く行くよ。」
スタスタと前を歩く彼の後ろにAは追いかけるように駆け足で続いた。
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作者名:かきのすけ | 作成日時:2018年8月4日 4時