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五十七 ページ11

「そんなに本を借りてどうするんですか」

と聞かれても、何て返事をすればいいか分からない。だって、どうにもしないから。

『どうもしません、よ…?』

「勉強してるんですよね、色々と」

『あ、はい。最近始めました』


冷やし中華始めました、みたいなノリで返事をしてしまったことを少し後悔しつつ、私と私の右手の隣に積まれた本を交互に見つめる彼の次の言葉を待った。
何の含みもないアホな返事だったからか、だいぶ言葉を選んでいるらしい。


「理由」

『ありません。理由なんて』



畳み掛けるように返事をすると、彼は益々瞳を混乱させてしまった。両手の指を格子状にクロスさせたりグーパーと開いたりしていたので、私はそれに答えをあげなければいけなかった。



『勉強してこの学園をどうこうする、なんて私にとって意味のないことなんです。そもそも、何年もその道で食ってきた人間にたった数ヶ月程度自己流で学んだ甘ちゃんが敵うはずないことは自明ですよ』

「じゃあ、何で、こんなに」

『強いて言うなら、ただ学びたい、知りたいだけですよ。本当に、知らないことを知りたい。それだけが私の今の生活の支えであり、そのために生きているんです』

「それが意味の無い事でもですか」

『ええ、もちろん』

「わかり、ました。急に話しかけてしまって申し訳ありませんでした」



彼は拍子抜けしたような表情になり、次には眉と頭を下げてまた仕事に戻ろうとした。きっとここに目的があって通っている彼にとっては、私の考えは理解の範疇を超えていたのだろう。それは仕方の無い事だ。
私は一度視線を開いていた本に落としたが、何となく思い立って、彼の背中に向かって



『意味なんてものは全て後付けなんですよ』



と言った。
肩をピクッと震わせて一瞬硬直した彼は、一度丸い目をした表情で私を振り返った。だがまたすぐに仕事に戻ってしまったのだった。

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Ashlee(プロフ) - 続きが速く見たいです (2022年5月1日 15時) (レス) @page11 id: 730adcd2c0 (このIDを非表示/違反報告)
秋冬(プロフ) - えッッッ途中で終わり…なんですか…。とてもいい作品で面白かったです! (2021年9月25日 9時) (レス) id: 1ebc893394 (このIDを非表示/違反報告)
947(プロフ) - すっごく面白いです!これからも頑張ってください! (2020年3月26日 2時) (レス) id: ef0a8212f8 (このIDを非表示/違反報告)
まる(プロフ) - まるごとぶどうさん» ありがとうございます!楽しんでいただけるよう更新頑張ります! (2019年8月7日 6時) (レス) id: 3f7caaff83 (このIDを非表示/違反報告)
まるごとぶどう - 続編おめでとうございます! 前作から楽しく拝見させてもらっています。これからどんな風になるのか楽しみにしています!無理せずがんばってください! (2019年8月6日 18時) (レス) id: 188b9ce26d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:まる | 作成日時:2019年8月5日 23時

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