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五十六 ページ10

昼休みを利用して図書室に借りた本を返却しに行った。

静かで、私が立ち入ると空気が尖ってピリつくけれど、学生時代を思い出すようでそれすらも心地良く感じられた。友達の少なかった私の逃げ場だったはずの図書室ですら、針のむしろになってしまったけれども、それでもいいのだ。

こんなことを考えるのは、鼻から息を吸い込んだから。それで鼻腔を通り抜けた墨と紙の匂いが脳の思い出を呼び起こしたからだ。


「あの、道を塞がないでください」

『あ、ごめんなさい。お仕事の邪魔をしました』


下からじろりと青い頭巾の子に睨まれ、反射的に謝り道を開ける。何冊も本を抱えながらおっちらおっちら歩く姿が愛らしく、加護欲を煽った。見つめることは失礼なので、横目で盗み見したその一瞬を心のフォルダに刻み込み、何食わぬ顔で本を物色した。

だって前回借りた大量の本の中で気になった点を調べるための本や、山本先生にオススメされた本を探さないといけないのだから。

隠しても隠しきれない視線は、分厚い本を突き抜けて私に届くが、そんなものは私の学習欲と知識欲の前ではそよ風と化す。その風が突風に変わり、読みかけの本のページを勝手にめくらない限り私は平静でいられる。


しばらく物色して満足した私は、部屋の入り口近くの長机に抱えて持っていた本を置いて、持ってきていたメモと今しがたピックアップした本を見比べ確認した。
左手でメモを確認し、右手で大雑把に本のページをめくりつつ流し見る。
草書体も多いが、だいぶこの時代の文字や文章には慣れた。と言うのも、この時代には活版印刷機が無いため、勿論本は全て人間の手書きなのだ。そのため本によっては文字の書き方や癖が顕著に現れて見える。たまに眉根をしかめて見つめてしまうが、そう言うものも前後の文脈をもって読めるようになったのだ。


己の学習能力の高さが恐ろしい。

天才。

才女とは私のためにある言葉。


誰も褒めてくれないからこうやって自分を自分で褒めなければいけないのだけど、ふとした瞬間虚しくなって自嘲してしまう。
ここまでが必ずワンセットなのをどうにかすることが今後の課題である。



「そんなに本を借りてどうするんですか」


下を向いていたから反応に数秒時間がかかったけれど、誰かが私に話しかけた。
顔を上げると、先ほどの青色の頭巾をかぶった子が、本を抱えながら私を見下ろしていた。

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Ashlee(プロフ) - 続きが速く見たいです (2022年5月1日 15時) (レス) @page11 id: 730adcd2c0 (このIDを非表示/違反報告)
秋冬(プロフ) - えッッッ途中で終わり…なんですか…。とてもいい作品で面白かったです! (2021年9月25日 9時) (レス) id: 1ebc893394 (このIDを非表示/違反報告)
947(プロフ) - すっごく面白いです!これからも頑張ってください! (2020年3月26日 2時) (レス) id: ef0a8212f8 (このIDを非表示/違反報告)
まる(プロフ) - まるごとぶどうさん» ありがとうございます!楽しんでいただけるよう更新頑張ります! (2019年8月7日 6時) (レス) id: 3f7caaff83 (このIDを非表示/違反報告)
まるごとぶどう - 続編おめでとうございます! 前作から楽しく拝見させてもらっています。これからどんな風になるのか楽しみにしています!無理せずがんばってください! (2019年8月6日 18時) (レス) id: 188b9ce26d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:まる | 作成日時:2019年8月5日 23時

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