青い空とミルフィーユ【Y】 ページ10
俺の洋菓子店にAさんが初めて来てくれた日のことは、よく覚えている。
その日は寒くて暗くなるころに雪がちらつきはじめ、お客さんが少なかった。
少し早いけど今日はもう閉めようかな。
そう思っていたら、仕事帰りのOLさんて感じの女の人が、白い息を吐きながら店のドアを開けた。
「いらっしゃいませ」
店の入り口で頭にのった雪をぱっぱとはらうと、Aさんはショーウィンドウの前に立った。
とても嬉しそうな顔で。
「ミルフィーユ2つください」
他にもたくさんケーキは残っていたけど、あんまり迷うことなくそう言った。
「ありがとうございます」
「ここずっと気になってたんです。やっと来られました」
作りは小さいし大通りに面しているわけでもなかったから、この近くに住んでいるのかな、と思った。
去年念願だった自分の洋菓子店を出した。
最初はなかなか客足がのびなかったけど、一度来てくれたお客さんが常連さんになってくれることが多く、やっと軌道にのってきたところだった。
「またお待ちしております」
ミルフィーユを入れた箱を持って、店の外まで見送ろうと扉をあけたらさっきより雪がたくさん降っている。
「わ。けっこう降ってる」
「……もしよかったら、雪がましになるまでここで待ちますか?」
俺は無口なほうだし、いくらお客さんとはいえ、初対面の人に普段ならそんなこと言わない。
たぶん。初めて会った時からAさんにひかれてたんだと思う。
でもAさんは笑顔で首をふった。
「早くミルフィーユ食べたいので帰ります」
「あ、じゃあ。傘持って行ってください」
「いえ、近いので大丈夫です」
俺は傘立てにあったビニール傘を取って少々強引に渡した。
「ビニール傘だし、使ったあと捨ててもらってかまいませんから」
Aさんは何度もありがとうございます、と言って帰って行った。
数日後。
Aさんはビニール傘を返しに来てくれた。
また閉店ぎりぎりの時間に。
「先日はありがとうございました。助かりました」
「いえ。わざわざすみません」
「それと、ミルフィーユすっごく美味しかったです!」
すっごく、のところに力をこめてそう言ってくれた。
「ありがとう…ございます」
店に出しているケーキはどれも、何度も試作を重ねて配合を考えて作ったものだから。
美味しかった、という言葉は俺にとってすごく嬉しいものだった。
まるで自分の体の一部をほめられてるみたいに。
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ニイナ(プロフ) - 桃マスカットさん» 桃マスカットさん初めまして!少し前に書いた話なのに見つけて読んでくださった上コメントもありがとうございます(*´∀`)どのお話も楽しんでいただけて嬉しいです♪宮っちのお話、私もこんな旦那さんめちゃくちゃ素敵だなと思いながら書いてました★ (2021年8月21日 22時) (レス) id: 9453ebaee9 (このIDを非表示/違反報告)
桃マスカット(プロフ) - 初めまして!どのお話もすごくよかったですー!!個人的にはみやっちので泣きそうになりました(;_;)理想の旦那さんですね! (2021年8月20日 18時) (レス) id: 21ddaf22cf (このIDを非表示/違反報告)
nina(プロフ) - piroponcandyさん» piroponcandyさーん、最後まで読んでくださってありがとうございます!全て素敵だなんて(ToT)一人一人のお話を楽しんでもらえたことが何より嬉しいです。またお話書いたらのぞきに来てください♪ (2021年2月26日 23時) (レス) id: 53a8b8ecd7 (このIDを非表示/違反報告)
piroponcandy(プロフ) - ninaさん、完結おめでとう(^^)どの話が良かったかなんて選べません、個々の話全て素敵で、内容も一人一人にあっています、また、素敵お話書いて下さいね(^^) (2021年2月26日 16時) (レス) id: bcc9486015 (このIDを非表示/違反報告)
nina(プロフ) - nanacoさん» nanacoさん、はじめまして(*´∀`)グッときたなんて恐縮ですが嬉しいです。どのお話もよんでくださってたんですね!最後までのお付き合いと素敵なお言葉ありがとうございます♪ (2021年2月25日 21時) (レス) id: 53a8b8ecd7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ニイナ | 作成日時:2021年2月19日 17時