１２月０５日。 ページ5
今日はやけに長い一日だった。少しため息を漏らしながら、早足で下駄箱に向かう。昨日と同様、轟の姿があった。
昨日よりは落ち着いて上履きを下駄箱にしまうと、少し顔を歪めて轟の元へ歩み寄った。
Aが話し始めるより早く、轟が口を開けた。
「昨日、ありがとうな」
そう言ってAに差し出したのは折り畳み傘。「ううん、大丈夫」と言ったAの顔は引きつっていた。
「いこっか」
珍しくAの方がリードして外に出る。今日は風が強く、耳が冷たいを通り越して熱くなっていくのが分かる。
「今日ね、友達に言われたの。轟くんと付き合ってるのって」
轟がAの方を向くと、動かしている足元を見たまま少し悲しそうな顔をしていた。
「だからと言って別に嫌な事言われたわけじゃなかったし、すぐにこういう噂流れるのは分かってたよ。……でも、なんとなく嫌なんだ」
マフラーに顔をうずくめながら、ボソボソと呟くように言う彼女を見て、轟は少し首をかしげた。そして淡々とした声で言った。
「何が嫌なんだ？ 別に知られたからと言って、俺たちが付き合ってることに変わりはないだろ」
「……そう、だね」
まだ不安げな声のままだった。
「何かあったら言ってくれ。彼氏が彼女を守るのは普通の事らしいからな」
Aは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに疑問を持った顔に変わり、轟の方を見た。「らしい、って？」と尋ねた。少しためらった後、照れくさそうに指で頬で掻きながら呟いた。
「その……姉さんが言ってた」
少し目を見開きながら「へぇ〜」と言った。轟が実の姉にそんなことを相談するようには見えなかったからだ。
実際にはAが携帯でカフェに誘った時、たまたま轟の姉が轟のスマホを見てしまい「しょ、焦凍！ 誰この子！？」と怪しげに聞いてきたため、慌てて轟が説明したのだ。それからと言うもの、ちょくちょく恋愛経験が乏しい轟にアドバイスを入れてくるのだった。
「今度、そのお姉さんに会ってみたいな」
少し微笑みながら言う。「いいぞ」とすぐに返答しようとしたが、言葉を詰まらせる。家にはAとどうしても会わせたくない、轟の父であるエンデヴァーがいる為、家に呼ぶことは難しかったからだ。
「……日程が合ったらな」
「本当？ 楽しみにしてるね」
ついさっきまでは悲しそうな顔をしていたのに、今はとても幸せそうな顔をしている。
そんな彼女の顔を見て、つられて轟も微笑んだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 43人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
夜桜瑠奈(プロフ) - ナイトメアさん» ありがとうございます！素敵でしたか……よかったです( *´艸｀)私もこういうほのぼのした雰囲気が好きなので、そう言っていただけるととても嬉しいです！閲覧ありがとうございました！よい年を過ごしましょうね！ (2018年1月4日 20時) (
レス) id: 916f6525ff (このIDを非表示/違反報告)
ナイトメア(プロフ) - 完結お疲れ様でした！！サラッと読んだだけなので、特にコメントも何もしていませんが！とっても！素晴らしかったです！やっぱり、いいですね、こういうのは…！素敵です！！これからも頑張ってください！応援してます！！良いお年を！ (2018年1月4日 20時) (レス) id: bdeef1bdf0 (このIDを非表示/違反報告)
夜桜瑠奈(プロフ) - かぁびぃ(駄作者)さん» ご愛読ありがとうございました！いつもご感想をありがとうござます！大変励みになります……！恋人らしくなっていく様子は何とか書くことが出来ましたが、やはり〆が……(笑)こちらこそ、来年もよろしくお願いいたします！m(__)m (2017年12月31日 21時) (レス) id: 916f6525ff (このIDを非表示/違反報告)
かぁびぃ(駄作者)(プロフ) - 完結お疲れ様でした！今回も非常に丁寧な仕上がりで、またぴしっと完結まで出来て本当に凄いなあと思います！どんどん恋人らしくなっていく二人に、胸がきゅんきゅんしました！素敵な作品をありがとうございます！▼そして、来年もよろしくお願いします。良いお年を！！ (2017年12月31日 21時) (携帯から) (レス) id: 87e86307e6 (このIDを非表示/違反報告)
夜桜瑠奈(プロフ) - 雷光さん» すみません……！お答えしたいのは山々なんですが、少しリクエストにはお答えしにくい小説の書き方をしているので……申し訳ありませんが、お断りさせていただきます……m(__)m (2017年12月30日 22時) (レス) id: 916f6525ff (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
