１２月１１日。 ページ11
「えー今週の金曜日から三者面談が始まります。進路を決める最後の機会なので、真剣に……」
六時間目、Aのクラスの担任である若い男性の声が教室内に響き渡っていた。「余裕だ」という表情をする生徒もいれば「どうしよう」と不安げな表情で話を聞いている生徒もいる。
Aはどちらでもなかった。先生の話ですら上の空で聞いており、強い風で小さく揺れる窓をぼーっと見つめていた。「私には関係ないことだ」と、思っていたからかもしれない。
***
「進路か？」
ガタンと自販機からコーヒーが落ちる音と共に轟が疑問を持った声色で言った。そのコーヒーを取る姿ですらかっこいいと思ってしまう。
遊具もない、子供が遊ぶ姿も見えないこの公園の中。ポツリと忘れられてしまったようなベンチに腰掛けていたAは、そんな彼の姿を見つめながら頷いた。
「うん。丁度ね、六時間目にその話題が出たの。そういえば、轟くんはどこ行くのかなーって」
また、缶が落ちる音がした。轟はその缶を取り出し、Aに近づきながら言葉を返す。
「雄英だ」
はい、とミルクココアをAに渡す。それに気付かずAは興奮気味に立ち上がった。
「ゆっ雄英！？ あ、あの、雄英！？」
「お、おう……これ」
申し訳なさそうにココアを渡すと、Aは我に帰り「ご、ごめん」と恥ずかしそうに座りなおした。轟も少し間を開けて隣に座る。
「推薦が来たんだ。たぶん、親の顔で」
すごいね、と轟の顔をみて言おうとしたが、言葉が喉に引っかかる。
どこか悔しそうに、コーヒーを睨んでいた。Aが初めて轟の事を「怖い」と思ってしまった瞬間かもしれない。
どう声を掛けていいか分からず、冷えた指先をココアで温めながら考える。
「あっ、そうだ、お金返すね」
少し慌てた様子でゴソゴソと鞄を漁るAの腕を軽く掴み、少し微笑んで止めた。
「大丈夫だ。これくらいは奢らせてくれ」
轟が微笑む顔をしているのを見て、Aは安心したように頷いた。
それぞれ飲み物に口をつけ始めると、今度は轟が質問する。
「秀抹は？」
少し戸惑ったように、目を逸らしながらポツリと言った。
「え……っと、私は……まだ決まってないかな」
そうか、と言ってコーヒーを飲む。Aの一口ココアを飲むと、軽く微笑んだ。
「決まったら、一番に轟くんに話すね」
轟は少し驚きながらも、優しい笑みを零して「ああ」と返した。柔らかい橙色を放つ夕日が、いつもより綺麗に思えた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 43人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
夜桜瑠奈(プロフ) - ナイトメアさん» ありがとうございます！素敵でしたか……よかったです( *´艸｀)私もこういうほのぼのした雰囲気が好きなので、そう言っていただけるととても嬉しいです！閲覧ありがとうございました！よい年を過ごしましょうね！ (2018年1月4日 20時) (
レス) id: 916f6525ff (このIDを非表示/違反報告)
ナイトメア(プロフ) - 完結お疲れ様でした！！サラッと読んだだけなので、特にコメントも何もしていませんが！とっても！素晴らしかったです！やっぱり、いいですね、こういうのは…！素敵です！！これからも頑張ってください！応援してます！！良いお年を！ (2018年1月4日 20時) (レス) id: bdeef1bdf0 (このIDを非表示/違反報告)
夜桜瑠奈(プロフ) - かぁびぃ(駄作者)さん» ご愛読ありがとうございました！いつもご感想をありがとうござます！大変励みになります……！恋人らしくなっていく様子は何とか書くことが出来ましたが、やはり〆が……(笑)こちらこそ、来年もよろしくお願いいたします！m(__)m (2017年12月31日 21時) (レス) id: 916f6525ff (このIDを非表示/違反報告)
かぁびぃ(駄作者)(プロフ) - 完結お疲れ様でした！今回も非常に丁寧な仕上がりで、またぴしっと完結まで出来て本当に凄いなあと思います！どんどん恋人らしくなっていく二人に、胸がきゅんきゅんしました！素敵な作品をありがとうございます！▼そして、来年もよろしくお願いします。良いお年を！！ (2017年12月31日 21時) (携帯から) (レス) id: 87e86307e6 (このIDを非表示/違反報告)
夜桜瑠奈(プロフ) - 雷光さん» すみません……！お答えしたいのは山々なんですが、少しリクエストにはお答えしにくい小説の書き方をしているので……申し訳ありませんが、お断りさせていただきます……m(__)m (2017年12月30日 22時) (レス) id: 916f6525ff (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
