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全身の神経が途切れたような、目の前が真っ暗になるような感覚。
「おかえり」
たった1秒。しかし、虎杖にとっては数十分のように感じる苦痛。
「……今の、何」
テレビから無機質に映画のエンドロールが流れる。
「私の術のひとつ、千ノ視線って言ってね。呪力で強い緊張感を感じさせる、みたいな」
「なんか、凄いね。五条先生とは別のベクトルで……あれで、1秒だけなのか……」
そういや、と自分の腕の中にいるぬいぐるみを見る。呪力が大きく乱れただろうその瞬間も、そのぬいぐるみは起きる様子がなかった。
「あぁ、私が止めといた……というか、悠仁の呪力を私が制限してた」
「え！？A先輩そんなことも出来るの！？」
「私の術式、精神干渉が得意だから」
携帯を確認して「そろそろ行くわ、呪力制限頑張れ」と姿を消した。
「……優しいんだろうけど、なんか、怖い人だな」
Aのいない部屋で、ボソリと呟く。あの一瞬の出来事を思い出すだけで、虎杖は思わず目を閉じてしまいそうだった。
「痛！？」
直後、虎杖はぬいぐるみに殴られた。
「建人さんいないかな……いないな……うん……」
ボソボソと呟きながら歩いていると、不意に足を止めた。
「……Aさん」
「伏黒恵じゃん、何してんの」
曲がり角を曲がり、少し離れたところで鉢合わせになりかけたのは伏黒だった。彼は所々に包帯を巻いている。
「……あー、うん、なるほど、東堂葵か」
「なんでわかったんですか」
「呪力がね。あと硝子さんに治療受けてもらった後でしょ」
伏黒は黙って目を逸らす。Aは溜息をつきながら伏黒の横を通り過ぎようとした。すると、少し離れたところに一人の少女が走ってきていた。
「あれ？誰よアンタ」
「釘崎……その人とは絡まない方がいいぞ」
釘崎はマジマジとAの顔を覗きながら「高専の人……じゃないのよね？」と呟く。Aも同じように釘崎の顔をまじまじと見たあと、ハッと息を飲んで彼女の手を取った。
「君、名前は？」
「え？釘崎野薔薇ですけど……」
「野薔薇……」
そして流れるように彼女の手の甲にキスを落とす。
驚く釘崎、また始まったとため息をこぼす伏黒。
「結婚してくれ」
「……はい？」
そのまま流れるように手を絡ませ、もう片方の手で釘崎の腰を引き寄せ、いつにも増して真剣な目で釘崎を見つめる。
伏黒はそんな2人の距離を物理的に離した。
「Aさん、自分より身長の低い女を口説く癖あるから」
「何言ってるんだ伏黒恵。私は強い女が好きだ」
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作者名：桜芽杏 | 作成日時：2021年1月11日 20時
