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「……自分がやられて嫌なことはしちゃダメなんだよ、知ってたか?」



呪霊はもがき苦しんでいるのか、泣き叫んでいるのかもわからない。ただ、数秒の間むごく動き続けた後、力尽きたように脱力した。

そして塵となって消えた。



Aの領域が溶けるように閉じていく。

「A先輩、手が……」

虎杖は自分の肩から離れていくAの手をじっと見ていた。

「……はは、バレた?」


その手は小刻みに震えていた。隠すようにポケットに手を入れる。


「自分の嫌なことは人にしてはいけない。でも私は、私が嫌いな相手にはわざと嫌なことをしてるんだ。昔も、今も」

ふぅ、と月明かりに照らされたAは、3人の目を順に見た。

「クソ性格悪いだろ?……その度に思い出すんだ。昔の恐怖とかトラウマみたいな、そういうやつを。それを他人を殺す道具にしてる……」


顔が立たないな、と苦笑しながらAは背を向ける。



「私は最低な呪術師だ」


「それは違う!」「それは違いますよ」「それは違うって!」


3人の声が重なる。
Aは目を丸くして振り返った。3人は自分を見て、悲しそうな目をして怒っていた。


「口ではそう言ってるけどさ、やってる事は結局、人助けじゃん!!」

「Aさんは自ら悪に歩いてるんじゃない。ただ昔のことが後からついてきて見ているだけだ。そんなこと誰にだってある……!」

「アンタ1人だけが悪者なんじゃない!それに、私だってなんてことない理由でココに来たのよ!何も変わらない、一緒じゃない……!!」


月が雲に隠れる。


Aは唖然とした表情で立ち尽くしていた後、ぷっと吹き出した。

「アハハッ、ハハハ!そんな重い話するつもり無かったのに」


3人の所へ近づいてAはまとめて全員を抱きしめた。その手の震えは既に収まっていて、ただ、聞いたこともないような落ち着いた声だけが彼らの耳元に残る。


「ありがとう、みんな。大好きだよ」



出会って数日。

知っていた。
過去の経験と第六感というその力のおかげで、人を知る目が肥えている彼女は。

その時、数十年ぶりに彼女は後悔していた。
僅かでもいい。少しでもいい。

本当の自分の感じ方で、彼らの温かみを感じてみたかった。




3人は紛れもなく彼女の「守るべき人」だった。




「クラァッ!!オマエらぁ!!」



遠くで新田の叫ぶ声がした。怒っているな、なんて4人は目を合わせ、小さく笑った。

「帰ろう」

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作者名:桜芽杏 | 作成日時:2021年1月11日 20時

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