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「無くした五感を反転術式で生み出した正の呪力によって無理やり動かしてるからさ、その呪力の流れを切ったら何も見えないんだ。それを利用すると、いくら傷を負っても無痛、それにすぐ再生して、という一連の流れを作れる」
さて、とAはポケットから手を出した。
「さすがに疲れてきたな、再生するのにも呪力はいるからさ。腹も減ったし、終わりにしよう」
私に触れて、と3人に目を向ける。3人は戸惑うことなく、それぞれAの服の一部を掴んだ。
「領域展開」
Aは小指を立て、呪霊の方へ向ける。
「"約束の教室"」
暗い空間の中、低く学校のチャイムがなった。それは頭を強く打たれるような地獄の始まりを示すチャイム。
「実は、呪霊にも感情がある」
教室の教壇に立っていたAは、薄ら笑みを浮かべながら右腕で虎杖と伏黒、左手で釘崎の肩を引き寄せる。教室の真ん中には呪霊がただ1匹、ひとつしかない椅子にひとつしかない机の前に座らされていた。
その巨体に見合わない椅子は何故か壊れることも無く、呪霊がその場から離れることもない。否、呪霊はその場で何も感じていなかった。
「一見私の術式は対人間用にも思えるけど、精神的重圧を受けるのは呪霊も同じ。元々は人の呪い、つまり感情から出来てるわけだしな」
3人は何も言わず、ただAの話を聞いていた。彼女は今、自分たちを成長させようとしているのだけは分かっていた。
Aは愛おしそうに右手で虎杖の腕を、頬で伏黒の頭を、左手で釘崎の髪を撫でていた。その目には慈悲のように何かを憐れむ視線を感じさせる。
「だから人間を殺しても、呪霊を殺しても、呪詛師を殺しても、動物を殺しても、それは平等な死だ。みんな、殺したということに変わりはない」
よく見ておきな、とAは言った。
「今から見せるのは、地上で最も最低な殺しをする人間の殺しだ」
Aを含む4人が見た光景は、自分へ向けられたものでは無い。それでも、とても不愉快な光景だった。
その光景を一言で表すなら"いじめ"のようなものだった。誰もが経験したことのあるような嫌がらせ、悪ふざけ、悪戯。それらを全て圧縮し、濃度を濃くした不快感を被せられたような感覚。
まるで見て見ぬふりでもしているような、そんな罪悪感。自分が悪い訳では無い。それでも辛く、死にたくなるような罪悪感。
もしあの場面に、Aの術式が自分に掛かっていたと想像するだけで吐き気をもよしてしまうほど。
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作者名：桜芽杏 | 作成日時：2021年1月11日 20時
