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「私は何もいらない。だから、憎いアイツらを殺して」


憎い。
憎悪と嫌悪と怠慢感と吐き気と頭痛と醜さと人間への呪いだけを感じて生きていた。


ただひたすらに、この世が憎かった。


ある朝、謎の圧に脳が圧迫されて目覚めた。
否、目覚めたことすら理解することができなかった。


不思議な体験だった。何も感じない空間の中、ただ自分の心臓が動いていることだけを理解した。


そして少女は、自分の中に渦巻く膨大な呪力の核心を理解した。



同時にAは、目覚めてから5分で全てを理解した。



自らが縛りで体の五感の全ての機能を制限し、自らが受けた呪いを自らのものにする力を得た──否、強化したことを。


Aは生まれながらにして、微かながらその力を持っていたことに誰も気づかなかった。



「今考えたら、私は生まれた頃から天与呪縛を受けていたのかもしれないな。五感と呪力量の制限の代わりに、人の呪力を自分のものにできる……みたいな、さ。分からないけど、後天的に発症したのも理由は分からないままだ」





その日、Aの通っていた小学校は、給食の時間に崩れ、潰れた。

「不味い」

今までかすかに感じていたその不愉快な虫の死骸の味が鮮明に脳へ伝わる。

「不味い、不味すぎる」

何か言ってるぜ、と周りの少年らはAを指を指す。
教員も愛想をつかしたように溜息をつき自分の席へ座る。


誰も、彼女を守るものはいない。







Aを虐めていた、見て見ぬふりをして無視をしていた生徒や教員は皆全治2ヶ月を超える重体を負った。

それ以外の者は意識を失っていたものの軽傷、もしくは無傷であった。

Aは崩れた学校の中、ひとり、ただ椅子に座って給食を食べ続けていた。




「それ、不味いだろ」


1人の呪術師がAの元に訪れた時、彼女はただただ幸せそうに笑っていたと言う。




それは奇跡と呼ぶにはあまりにも不気味であった。





「キミ、呪いは見えるんだね?」

崩れ落ちた教室の中、Aは静かに頷く。

「──じゃあ、約束してくれるかな」

低い声で強面の男は小指を差し出した。

「もしまた怖いことがあったら、ちゃんと……

私たち呪術師に、助けを求めなさい」


Aは笑った顔を崩し、人を呪うような顔をして、ゆっくりと小指を絡めた。




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作者名:桜芽杏 | 作成日時:2021年1月11日 20時

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