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「お前のせいで、この名字のせいで!!私は私であることを許されないんだよ!!」
五条は苛立ったように「あっそう」と右手の拳に力を入れ、ゆっくりと動かし始める。
「五条さんから手を離してあげてください」
その瞬間、Aはハッとした表情で手を離した。
「建人、さん……と、灰原雄さん」
飛び跳ねるように七海の後ろに逃げ込むAを見据えながら、五条は無気力に立ち上がった。
「何、七海、それ飼ってんの?」
「物騒な言いがかりはやめてください。この子は正式に高専が引き取ることを決定した身です」
「悟」と夏油は五条の肩に手を置いた。
「やめよう、彼女はまだ小学生だ。それに、目も見えていなければ耳も聞こえていない。おそらく縛りか何かで……」
「クソガキはクソガキだ、知ったこっちゃねぇよ」
五条は吐き捨てるように呟きながらその場を去る。夏油も小さく溜息をつきながらAの方を見た。
その目はとても輝いていた。
「傑、さん……貴方も分かったんだ……!!」
七海の服を掴んだまま顔をのぞかせる。夏油は小さく微笑み、膝を曲げて視線を合わせた。
「うん。多分、ここにいる呪術師はだいたい分かるはずだよ。それに、悟も」
「……五条悟も?」
「アイツは悪いやつじゃない。性格はとんでもなく悪いけど、根はいい奴だからさ。今日のことは許してやってくれないかな」
「……わか、った」
1年後。それは五条が最強となり、夏油が敵となり、何もかもが変わった年。
それでもAはただ、悲しむことも無く、淡々と生きていた。
悲しい出来事も多くあった。涙を流すこともあった。
その時には既に呪力による身体能力の維持も反転術式の扱いも完璧に理解していたのだ。
五条はその後、定期的に顔を合わせていた男のひとりがAの父親であることに気づく。
そして彼が先生となり、Aに接する態度を変えてから初めてであった日。
初めて五条の言葉を聞いたAはただ一言。
「うわ、キモ」
「そりゃ酷いな〜、生徒に怖がられないようにするためだよ〜」
ピラピラと手を動かしながら五条はAの前で笑みを作る。
(本当に気持ち悪い。どうしてコイツはこんなに笑えるんだよ)
「……別に私は関係ないだろ、教師でもないし」
「まぁ一応、監視役って感じかな。特級術師Aの存在はまだごく少数しか知らないからね」
「うざ」
煙草を蒸かし、手でにぎりつぶすなりAは舌を出してその場を去った。
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作者名:桜芽杏 | 作成日時:2021年1月11日 20時