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「よくわかったな、私が見えてないの」
「普通は分かりますよ」
「みんな分かってねぇよ……あなただけだ。あ、名前聞いてもいいか?」
七海は少し戸惑い、「七海建人です」と答える。
「建人さんか!私のことはAって呼んでくれよ。名字嫌いだから!」
嬉しそうに目を輝かせ、無邪気な笑顔を向けた。
「……分かりました、Aさん」
その後、数ヶ月もしないうちにAは高専に定期的に来ることになり、そして10歳には高専の寮で暮らすことになる。
七海は知っている。彼女は自らの呪力により、失われた五感の機能を補助していること。
そして、その事について、彼女自身の口から話した初めての人物が自分であったことを。
「建人さんッ!!!」
人通りの少ない公衆トイレから出てきたばかりの七海に飛びかかるように空中から現れる。
「Aさん?どうしてここに……」
「潔高さんから聞いた!!どうして応援に呼んでくれなかったんだ!?」
声を荒らげるAを見て、平然とした様子のまま答える。
「私だけで事足りると思いましたから」
「でも怪我……!」
「大したことありません」
Aの横を通り過ぎようとしたが、Aは怪我を押えていない左手を掴んで止めた。
「……しんどいくせに、何言ってんだよ」
彼女は第六感、つまり、人間では証明のしようも説明のしようもできない直観的な能力を呪力により底上げすることが出来る。
「流石に、隠しきれませんか」
しかし大したことの無い怪我なのは本当です、と告げる七海の腕を持つ。
「まだ建人さんの役に立てないのか、私。そんなに、弱いか、子供か……?」
下唇を噛みながら、自分を恨むように言葉を漏らす。その様子を見た七海は、深く息をついた。
「貴女は……とても、とても強いです。だからこそ大人である私が、貴女に頼りきりではダメなのですよ」
「私は、貴方に、建人さんに頼られたいんだよ、恩人だから。そのために……」
「なら、そうですね……」
背中を丸めて、Aの肩に頭を置いた。
「少しだけ、休ませてください。2分で回復します」
今日初めて聞いた、彼の重く、疲労のこもった声。それを聞いてAは何故か安心していた。
「……貴女と、年が離れていて、つくづく良かったと思いますよ」
「どうして?」
「きっと同年代なら、魅入られていたから」
その言葉を聞いて、クスリと小さく笑う。
「そういう正直なところ、ずっと好きなんだ」
「知っていますよ」
七海も答えるように、小さく微笑んだ。
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作者名:桜芽杏 | 作成日時:2021年1月11日 20時