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彼女と七海の出会いは、随分と昔の春の事だった。
「……誰だよ、ジジイ」
Aがその年で8歳の、七海が高専1年生の時。
「ジジイって……君、どこからきたのかな?」
片膝を曲げて幼いAと目線を合わせる。七海は瞬間的に気がついた。彼女は目が見えていない、というよりこちらを見れていないことに。
それでもAはその焦点の合わない目で、必死に七海と顔を目を合わせようとしていた。
「は?来てねーし、連れてこられたんだし、クソ親どもに」
「そうか……じゃあ連れていくけど、名前は?」
「A」
「名字は?」
「誰が言うか」
悪態をつきながら七海を睨む。七海──というより、彼の斜め横に生えている木を睨むような形で。
「あぁ、いたいた、Aちゃん」
少し離れたところから低い声の男性、Aの父と思われるその名が聞こえてきた。
「……クソ親」
ボソリと聞こえるAの声。七海は立ち上がりながら礼をした。
「君は……高専の生徒さんか、こんにちは」
「こんにちは」
それだけ挨拶をすると、その男性はAの手を掴もうとした。
「ごめんね、Aちゃん。五条さんに挨拶へ言ってたんだ。さ、帰ろう」
「触るな、汚い」
Aはいつの間にか七海の後ろに隠れていた。身長100センチほどの、彼女の年齢にしては少し低い彼女はギュッと七海の裾を掴んでいた。
「……失礼ですが、名字を伺っても?」
「あぁ、
嫌な笑みを浮かべながらAに近づく。
「反抗期なんだ。その子は。最近やっと術式の使い方に慣れてね、はは、か弱かったはずの娘が、呪術師の才能に溢れた天才だったんだ。ははは、これは、いや、この子はね、五条さんと釣り合う女になるよ」
流暢に笑を零しながら、さぁ、とAに手を伸ばそうとする。しかし、七海はその手を掴んだ。
「貴女の娘さん、目が見えてませんよね?」
裾を掴んでいたAは目を丸くした。
「は?そんなわけないだろう」
「自分の子供の様態も分からない父親に反抗するのは当たり前だ」
やけに低いトーンで七海は男性を見た。歯を食いしばってその掴まれた手を払い、舌打ちを鳴らしながらくるりと背を向ける。
「……また、迎えに来るから、気が済むまでその人と遊んでなさい」
しばらくしてから、Aは上目遣いで七海を見た。
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作者名:桜芽杏 | 作成日時:2021年1月11日 20時