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彼女は寂しそうに笑う。それは自虐でもなく、自嘲するような笑みで。
数秒も経たないうちに彼女は掴んでいた呪霊の頭を握りつぶした。
「……なんて、ね」
1つ、大きなため息をついた後に、Aはその建物を後にした。
彼女の"直感"は人並外れて優れている。が、それは予知ではなくあくまで直感故、外れることも稀にあった。
それでも彼女がその直感を2回連続で外したことは無い。
ほぼ同時刻、伏黒は一級呪霊1体と、他低級呪霊数体を目の前にしていた。
(先輩たちは別の場所で呪霊を相手にしてる。釘崎とも交戦中にはぐれた。連絡をとって合流するのは……まず無理か)
狭い建物、それに15階と、常人であれば飛び降りれない高さ。
(一級呪霊、だよな。他の低級はどうにかなるとして……問題は、どうやってここから逃げ切るか)
天井も低いこの場所ではろくな式神を使えない。彼にとってはとても不利な状況だった。
「"蛾蟇"!」
彼の影から映えるように出現した蛙は一級呪霊を拘束する。が、彼よりふたまわりは大きい呪霊はいとも簡単にその高速を解いた。そのままその身に持っていた鱗のような鋭利な円形を伏黒に飛ばす。
(くそっ、鵺を出して外へ出ても叩き落とされる……!どうすれば)
その思考を貫くように、いつの間にか呪霊の足から生えていた不透明の紫色の蔦が伏黒の腕をかすめる。
そしてそのかすり傷を目視した瞬間、その異常性に気がついた。
(これは……攻撃じゃない……!?状態付与の部類の攻撃……!)
呪霊の裏に出現させていた蛾蟇を使い、自らを回り込ませる。呪霊の体は大きく、すぐには反応できないことを見越しての逃亡を予定した動き。低級呪霊は、すでに一級呪霊のプレッシャーに負けて散り去っていた。
(今しかない……!)
逃げようとした矢先、彼は気が付かない間に壁にたたきつけられていた。
血が伝う感覚だけがハッキリと分かる。遠くで呪霊が低く笑っているのも分かる。
(また……また負けるのか……!!)
もうろうとする意識の中、力をふりしぼり起き上がる。蛾蟇はすでに消失し、手先は痺れているように動かない。先程腕を掠めた攻撃が、毒性に近いものであったことにその時気がついた。
「なら……死んでもお前を祓ってやる……!」
呪霊が瞬きをさせる暇もない速さで伏黒との距離を詰める。彼は殺意の篭った目で、震える手を合わせようとした。ぐらり、と視界が揺れる。
「ごめん、大丈夫?」
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作者名:桜芽杏 | 作成日時:2021年1月11日 20時