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(……彼女は紛れもなく五条さんに並ぶ特級呪術師。自分の家計を嫌い、名字を頑なに教えない彼女がフルネームで呼ぶ人は興味のない人、あるいは特異的に何かを毛嫌いしている人のみ)
だからそれでも彼女は、嫌っている人に対する態度は五条よりも酷いことを七海は知っていた。
「まっ、いいや。話が通じるだけマシかな。呪霊と変わらない人間の監視役も大変だ」
考え事をしている横で五条がそう呟くと、七海は「五条さん」と目を向けた。
「それは、彼女の前では言わないで下さい」
「……はぁ。七海、彼女のこと気に入ってるでしょ」
「別に、そういうのでは無いですよ」
七海は足を止める。五条は少し遅れて足を止めた後、平然とした様相のまま手を広げた。
「Aが自分自身で言ってることだし、僕もそう思うよ。彼女は間違いなく呪霊に近い存在だ。七海もそれを理解してる、限りなく少ない1人だろう？」
「……それでも、彼女は人間です」
七海の言葉に、クスリと五条は笑った。
「わかったよ、悪かったって、七海建人クン」
「その呼び方はやめてください」
都会の外れにある、治安の悪い町。高専から最寄りの駅で10駅ほどのところまで、Aは30分ほど飛び続けていた。汗ひとつかいておらず、ポケットに手を入れたままスキップをするように建物と建物を渡る。
「ここら辺、こんなに呪霊たちが居たっけ？」
軽やかな音をたてて割られていた窓ガラスから建物内に侵入する。乱れた髪の毛を整えていると、2体の呪霊が姿を現す。
(最近貰った呪力の調整も兼ねて"直感"を使って跳んできたけど、質がいいな。やっぱ、学校から呪いを貰うのが1番効率がいい)
彼女の履いている厚底のスニーカーもただのスニーカーではなく、彼女の呪力が少量込められた呪具の一つである。そのため、衝撃や耐久性に優れていた。
1匹の呪霊がAの後方に回る。もう1匹は真正面から鋭い爪を振りかざしていた。どちらも2級呪霊で、その速さは風がAの前髪を緩やかに揺らす程度のもの。
前方にいた呪霊は、粒子レベルに分解された。後方に回り込んでいた小柄の呪霊は、頭以外残されていなかった。
「あのさ、伏黒恵って言うやつ知らない？ここら、呪力が混ざりすぎて辿れなくてさ」
ね、と頭を掴んで同じ目線に持ってくる。彼女はさきほど、瞬間的に自分の呪力を2体に流し、彼らの存在を自分の呪力で上書きし、消失させた。それは常人ではし得ないことだが、彼女はゲームデータを上書きする程度のものだった。
「教えてくれてもいいんだぜ？呪霊同士のよしみでさ」
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作者名：桜芽杏 | 作成日時：2021年1月11日 20時
