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寝巻きのサイズ感も、服と同じようにぶかぶかだった。いつもとは違うAのギャップのある姿に動揺しながらも、虎杖は何度も声をかける。どれだけ声を大きくしても起きる気配はない。
(しっかし、本当に顔だけ見たら小学生みたいだよな……すげぇ、背徳感を感じる)
なんてことを考えていると、Aの目が人形のようにパチリと開いた。
「……ポチ？」
Aは虎杖を見てそうつぶやく。一瞬、俺？と戸惑った虎杖は膝を曲げてAと目線を合わせた。
「そうですよ〜ポチですよ〜ワンワン〜って……」
悪ふざけをしながら笑っていると、Aは虎杖の頭の上に手を置いた。
「よしよし、いい子だ」
いつになく柔らかい声色で頭を撫でられ、困惑する。なぜか耳の裏が熱くなるような気がして、
「A先輩、もしかして起きてます？」と声をかけた。
「ふふ、起きてるぞ」
「か、からかわれた……！？」
ばっと距離を取る虎杖に声を上げて笑った。
おいで、と手を広げる。まだ寝ぼけているのだろうかと虎杖は恐る恐る近づき「何するんです？」と尋ねた。
「眠気覚まし」
グイッと顔を肩に乗せるように虎杖を引き寄せた。
「うん……ほんと犬みたいだな、お前」
「まだ寝ぼけてます？」
「いいや、ぱっちりさ」
彼女の身から離れた虎杖は、Aの目が一瞬ひどく虚ろに見えた。瞬きする間にすぐに光を取り戻し、Aは立ち上がる。
「じゃあ昼飯でも一緒に食いにいくか」
寝巻きを脱ごうとAの腹が姿を現した。女性とは思えない割れた腹筋と、無駄のない脂肪分。女性物とは思えない下着が虎杖の目に入ったところで、慌てて背けた。
「ちょ、ちょっと！！そういうことするのやめて！？」
「ん？あぁ、ごめんごめん、外出てて」
そう言われるなりすぐに虎杖は部屋の外へ出た。
触らかい女性特有の匂いと、あの虚ろな目がやけに記憶に残っている。
(何なんだっただろう、今日の先輩……)
すでに1ヶ月弱の付き合いだというのに、虎杖は彼女がどのような存在かを知り得ていなかった。
彼女は去年卒業した元高専の生徒であり、腕の経つ呪術師である。しかし、その等級は3級と、彼女の発するオーラにそぐわない階級だった。
だから虎杖は気付いた。彼女は嘘をついていること、隠し事があること。
(……まぁ、A先輩、話したがるような人じゃないもんな)
それを不審には思ってもいなかったが、どこか寂しさを感じていた。
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作者名：桜芽杏 | 作成日時：2021年1月11日 20時
