39輪 ページ39
最寄り駅に入る前、そうだとAは足を止める。
「今日で最後か、会えるの」
「最後では無いけど……そうだな、しばらく会えないな」
遅れて心操も足を止め、人の流れからはみ出るように道の端へ寄る。
ペアでつけたブレスレットを触りながらAが告げる。
「でも大丈夫、また向こうでの暮らしが落ち着いたら、すぐ戻ってくるからさ。うん。なんかしんみりしちゃうと、余計寂しいもんね」
明るい顔をして、Aはぱっと顔を上げる。
「よし！いつでも会えるしいつでもお話出来る！何にも怖いものなんてないさ！」
心操も「そうだね」と笑い、Aに引かれるがまま体を委ねた。
次の日。
早朝からのフライト。
Aは黒いキャップを被っていた。
「うわぁ、緊張してきた、飛行機とか修学旅行以来だよ……」
「落ち着きなよ」
「あと10分で荷物検査かぁ！！」
緊張しているのか楽しんでいるのか分からない、修学旅行前の様子のAを心操は笑ってみていた。
本当は笑ってなんていられない。すぐにでもしかめっ面になりそうだったが、表だけでもAを心配させたくなかった。
「ふふ、無理に笑わなくていいよ」
Aに気づかれることも分かっていた。
「いいんだよ。こういうのは表向きが大切だからさ」
あと2分。Aは急に「言おうと思ってたことがあるんだ」と言った。
「……何？」
「本当にしょうもないし、つまらないことだから身構えないで聞いてね」
肩をすくめながら笑い、心操の髪をくしゃりと撫でた。
「私さ、"ダチュラなピアニスト"……なんて、いつ誰に付けられたかも分からない名前、そんなに気に入ってなかったんだ。
今でもそんなに気に入ってない。毒を持って人を魅了した、なんて逸話もあるらしいし」
1度下を向いて、もう一度心操の目を見た。
「花言葉ってのは案外些細なことから決まるんだって。
だから私がもし、ダチュラなピアニストとしてすごーーーーく有名になったらさ」
悪戯に笑みを浮かべた。
「【初恋】っていう花言葉、つけたいな！」
Aとその家族が乗った飛行機が飛び立った。
心操は悲しくなどなかった。
辛くもなかった。
それでも、虚無感に近い焦燥感は感じていた。
──これ、あげる。
心操の手に持つのは黒いキャップ。
──帽子はいいよ。見える世界も、感じるものも、減らしてくれる。
それをぎゅっと胸元で握りしめた。
──黒いキャップは君と出会った思い出。
大空を見上げた。
──私と君だけの世界を作ってくれた存在さ！
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桜芽杏(プロフ) - にょるとさん» 閲覧ありがとうございました！ピアノの曲のようなお話、と言っていただき、私の作品への思いと夢主たちの物語にこもった気持ちが伝わっているのがわかり、とても嬉しいです。こちらこそわざわざコメントまでありがとうございました！ (2021年9月12日 11時) (
レス) id: 4e2ed4ed51 (このIDを非表示/違反報告)
にょると(プロフ) - 本当に本当に素晴らしいピアノの曲のようなお話でした…！！素晴らしい作品をありがとうございます！ (2021年9月12日 3時) (レス) id: 4a7d856f5b (このIDを非表示/違反報告)
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