36輪 ページ36
その後、Aの手料理を振舞われた心操は、ゲームの延長戦をしている間に寝落ちをしてしまっていた。朝起きた時には枕と毛布がセットされていており、隣のベッドではAが寝ていた。
「おっ……」
思わず声に出してしまい、パッと口を塞ぐ。そしてすぐさま後ろを向き、部屋を出た。
(さすがにヤバいだろこれは)
異質な汗が背筋を伝う。しばらく何もせずにただこの状況を打開する方法を考えていると、突然後ろから声をかけられる。
「おはよう！」
「あっ！？」
肩を震わせ振り返ると、寝癖を直すように頭を搔くAが大きくあくびをしていた。
「いやぁ立派に寝落ちしてたね！さすがに夜3時に牧場系のゲームは眠かったかぁ！！」
水入れるね、とリビングに向かうAの後を追う。
「いや、あの……」
「ん？今日なにか用事あった？」
「違うんですけど、その……服……」
心操は彼女から目線をそらす。Aが着ていた服はヨレヨレの首元で、下着は付けていないというのがハッキリと分かるものだった。
「ん？あぁごめんごめん！昨日人使が寝たあと着替えたんだよね〜」
ふふ、と小さく笑いながらAが水を差し出した。
「まぁ、今のうちから慣れてよ」
1ヶ月後、さよならコンサートが行われることになった。
心操は受け取っていた招待券を鞄に入れ、いつもより綺麗目な服を着て赴いていた。
「人使ー！」
開演20分前、心操はAに楽屋に呼ばれていた。
「こんにち……は……？」
その姿はあの少女の姿ではなかった。
心操が見慣れた、凛々しい大人のAだった。
「どう、したの、今日は」
「ん？あぁ、これね」
いつもより大人びたドレスをひるがえし、Aはニッとはにかんだ。
「今日くらいは、"変装"しなくてもいいかなって」
その笑みは心の底から現れた、純粋無垢な笑みだった。
開演してすぐに会場はざわつく。
最前席にいても分かる、いつになく緊迫した雰囲気。
彼女が放つ、全てを打ち消し無音にしてしまうような音。
会場全体を刺す、彼女の流し目。
全てがいつもと違った。
そして、全てが心操が知るAだった。
1曲目は革命のエチュード。
次も、その次も、またその次も、心操の前でAが弾いたことのある曲だった。
(まるで……)
そう考えて、心操は止めた。
──自分のためのコンサート。
なんて、自惚れていると思ったからだった。
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桜芽杏(プロフ) - にょるとさん» 閲覧ありがとうございました！ピアノの曲のようなお話、と言っていただき、私の作品への思いと夢主たちの物語にこもった気持ちが伝わっているのがわかり、とても嬉しいです。こちらこそわざわざコメントまでありがとうございました！ (2021年9月12日 11時) (
レス) id: 4e2ed4ed51 (このIDを非表示/違反報告)
にょると(プロフ) - 本当に本当に素晴らしいピアノの曲のようなお話でした…！！素晴らしい作品をありがとうございます！ (2021年9月12日 3時) (レス) id: 4a7d856f5b (このIDを非表示/違反報告)
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