34輪 ページ34
「……いいよって、俺が言うのもおかしな話なんだけどな」
Aが誘うようにベッドに座っていた隣をポンポンと叩いた。心操は少し躊躇った後、浅く座り込む。
「それは確かに」
「……」
「寂しい？」
「少しだけ」
心操は平気な素振りをして笑って見せた。
「家族で海外に？」
「うん。元々お父さんが海外にいてさ。家を買い換えてそこに住みながらーって感じ」
心操は「海外か……」と小さな声で呟きながらAから目をそらす。Aは困り眉になりながら、心操の頭を引き寄せた。
「人使がね、頑張ってるのを見て、私も頑張ろうって思えたんだ」
「俺が？」
そう、と顔を動かした心操とAは目を合わせた。Aは彼の頭に置いていた手を肩に下ろし、ポンと軽く叩いた。
「そ！私、今まででピアノを弾くのが好きで、なんとなくピアノを弾いてたの。
それで命の恩人に出会って、ピアニストを勧められて……あぁ、別に趣味としてピアノを弾くんじゃなくて、仕事にしてもいいんだって思えたんだ」
Aは1度心操と目を合わせ、頷いた心操を見て話を続ける。
「普通に世の中に出て会社員として働くことしか考えてなかったからさ。それに、芸術家とかって不安定だから、成功するかも分からないし。
でもさ、やっぱり私は好きなことで生きていたいって思えたから、ピアニストの道を選んだんだ」
トン、トン、と彼の肩を叩く。
「人使も一緒！君も、ヒーローになりたいからなる。私も、弾きたいからなる！
それに人使は自分の命を懸けているんだ。私は他人のために命をかけるなんて正直ごめんだけど……」
1度目を逸らし、またもう1度目を合わして大きく笑った。
「私自身のために命を燃やすなら、悪くないかなって！カッコイイ君の顔を見てたらそう思ったんだー！」
心操は照れくさそうに顔をAから離したが、その刹那に心操の体はベッドの上に倒れ込んでいた。
彼女が自分を抱きつくようにしてベッドに倒れ込んでいたと気づくのに、少しの時間が必要だった。
「はずかし！めっちゃ語っちゃうじゃん私！」
足をばたつかせるAの下で、心操は顔を紅潮させながら言葉を詰まらせていた。
「あーー！でも安心しなよ人使！！海外に行っても私は君以外好きにならないから！！
……あれ？人使？なんでそんなに表情溶けてるの？」
ようやく心操の酷く戸惑った姿を目にしたAは、不思議そうに首を傾けた。
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桜芽杏(プロフ) - にょるとさん» 閲覧ありがとうございました！ピアノの曲のようなお話、と言っていただき、私の作品への思いと夢主たちの物語にこもった気持ちが伝わっているのがわかり、とても嬉しいです。こちらこそわざわざコメントまでありがとうございました！ (2021年9月12日 11時) (
レス) id: 4e2ed4ed51 (このIDを非表示/違反報告)
にょると(プロフ) - 本当に本当に素晴らしいピアノの曲のようなお話でした…！！素晴らしい作品をありがとうございます！ (2021年9月12日 3時) (レス) id: 4a7d856f5b (このIDを非表示/違反報告)
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