32輪 ページ32
Aはその手を、もっと強く握り返す。
「才能は無いわけじゃないと思う。でも、それを言い訳にしたらダメだよ。僻んでもダメだよ。それは、才能を持って辛い思いをしている人への差別だよ」
だからね、とAはもう片方の手を心操の手を包み込むようにしてギュッと握りしめた。
「人使くん、もし、君よりも凄い人が出ても、絶対に諦めないで」
Aは顔を伏せていた。珍しく、心操に顔を合わせようとしない。
「どんなに泥臭くてもいい。どんなに卑怯でもいい。どんなに悪者みたいでも、夢を……なりたい自分になれないことを、諦めないで」
心操はただ自分の手に伝わってくる思いを受け止めて、心に刻むことしか出来なかった。
彼女は顔を上げていた。酷く悲しそうな顔をして、一瞬わからなかったほどの小さな涙を頬に伝わせていた。
「お願い」
───
雄英高校の入学式があった。
そして、初めての行事である体育祭はすぐに訪れた。
あの日、深く刻んだAの言葉を胸に、心操は体育祭へと出場していた。
「ダメだったよ」
心操は薄ら笑みを浮かべながら手を首に置く。
「そう？めっちゃカッコよかったけどなぁ〜」
シャドーボクシングをしながらAは楽しそうにしている。少し短くなった髪の毛を揺らしながら、その日は紫色のキャップを被っていた。
噴水の音が響く公園で2人は並んでベンチに座っていた。日の暮れかけていた公園には誰一人の姿も見えない。
「いや〜強かったね！緑谷くん、だっけ？」
「そう、きっとAは好きなタイプだよ」
「やっぱり？なんかいいよね！主人公みたいだったよ、彼」
「確かに」
「あと、人使もいい顔してた」
クイッと目尻を上にあげて、Aはわざとらしく悪者のように笑う。
「威圧感！魔王みたいで！」
「怖かった？」
「いや？可愛かったよ？」
は、と呆気に取られる心操の頭の上に手を置いた。
「人使が入学してくらいから、芯が太くなったっていうか……世間的に見たらキツくなってるんだけどね。
なんか、その姿を見てると、本当の人使を知ってるのは私だけなんだなーって」
優越感ってやつ？と歯を見せて悪戯に笑うと、心操は目を逸らしながら「それはどうも」と小さく呟いた。
(変わったのは入学してから、じゃないんだけどなぁ)
「照れてるー！！好き」
「分かった分かった」
呆れ返る心操に、そうだとAは立ち上がる。
「家、家族いないから泊まっていきなよ」
平然な様子でそう笑っていた。
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桜芽杏(プロフ) - にょるとさん» 閲覧ありがとうございました！ピアノの曲のようなお話、と言っていただき、私の作品への思いと夢主たちの物語にこもった気持ちが伝わっているのがわかり、とても嬉しいです。こちらこそわざわざコメントまでありがとうございました！ (2021年9月12日 11時) (
レス) id: 4e2ed4ed51 (このIDを非表示/違反報告)
にょると(プロフ) - 本当に本当に素晴らしいピアノの曲のようなお話でした…！！素晴らしい作品をありがとうございます！ (2021年9月12日 3時) (レス) id: 4a7d856f5b (このIDを非表示/違反報告)
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