25輪 ページ25
目が潤んでいた。心操は自分を見ているのか、はたまたそのヴィランを見ているのか分からないAの目を見ていた。
(泣かない。……強いな、この人は)
昔の自分を思い出し、羞恥心と同時に情けないと自分を責めたい気持ちに駆られた。
手持ちの飲み物を飲み干したAは1つ息を着く。
「来る？お墓参り」
その笑顔に、悲しみの笑顔は消えていた。
夕日が顔を見せ始める午後6時前。
趣深く影を作っていたのは、とある河川敷の上に建つ橋だった。
「ここだよ」
時々車が通る音が響く橋の下で、Aはその紙袋から大きな花束を取り出した。
「……あ、もうひとつある」
少し大きめの石で、Aより少し小ぶりの花束が置かれていた。
「他にも、人が来てたんですね」
「うん。私と同じような人がいるんだろうね」
その隣にAは同じように花束を置いた。そして何も言わないまま手を合わせる。
「お線香はいらないんだ。あの人は、導かれる煙なんてなくても自分で行くべき場所がわかる人だから」
心操は何も言わない。何も言えなかった。
しばらくして、「よし！」と声を上げてAは心操の方へ振り向いた。
「帰ろっか」
「え、もういいんですか」
「イェス！今の私には人使くんがいるからね」
歯を見せて陽気に笑う。心操の表情は曇ったままだ。
「……無理して、笑ってます？」
その言葉にAはぴくりと口角を動かす。すぐにその笑顔は消えた。
「無理はしてないよ。ほんと。でもまぁ、君の顔を見てるとね、元気づけてあげないと、ってなるからかなぁ」
悩み込むようにして手を顎に置く。すぐに、あぁと声を漏らして心操に駆け寄った。
そして大きく腕を広げて、彼の頭を胸に埋めるようにして抱きしめた。
「じゃあ、これくらいのことなら許してもらえるかな？」
心操の頭を撫でるAの手は、いつもより強ばっていた。そして不器用だった。
心操は紅潮させた顔を隠すように彼女の懐に入り込み、控えめに抱き返した。
「……今更ですよ」
「へへ、さすがの心の広さだね」
─────
Aと父親は瓦礫の下に埋まっていた。足が挟まって身動きが取れない。父親は隣で、頭から血を流しながら自分を庇うようにして倒れたままだった。
ヴィランの騒動に巻き込まれたAは、段々と周りの人気が無くなっていくことに気づき、絶望した。
(嘘、どうして、ここで死ぬの、私)
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桜芽杏(プロフ) - にょるとさん» 閲覧ありがとうございました！ピアノの曲のようなお話、と言っていただき、私の作品への思いと夢主たちの物語にこもった気持ちが伝わっているのがわかり、とても嬉しいです。こちらこそわざわざコメントまでありがとうございました！ (2021年9月12日 11時) (
レス) id: 4e2ed4ed51 (このIDを非表示/違反報告)
にょると(プロフ) - 本当に本当に素晴らしいピアノの曲のようなお話でした…！！素晴らしい作品をありがとうございます！ (2021年9月12日 3時) (レス) id: 4a7d856f5b (このIDを非表示/違反報告)
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