24輪 ページ24
「いや、そんな、俺の早とちりのせいで……」
個性を使ってしまったことを話した方がいいのだろうか。話した方がいいに決まっている。それでも、嫌われてしまうのではないかという疑念への恐怖心が勝ってしまい口が上手く動かない。
「あ、その……その花は？」
心操は必死に話題を逸らそうとしてAの隣に置かれていた紙袋に目を向けた。「ああ」と目をそちらに向け、口を紡いだ。
なにか触れてはいけないことだったのだろうか。そう思い別の話を探そうとした時、Aは心操の方へ向き直った。いつになく、真剣な目をしていた。
「私の恩人の墓参り」
ふふ、と誤魔化すように笑う。
「とは言っても、私は死んでないと思ってるんだけどね」
「え、どういう……」
「死んだ振りをしてるんだ」
死んだふり、という言葉を人間に使うことに馴染みが無さすぎるせいか、一瞬戸惑う心操。
「あの人は人使くんと違ってね、全く音がしないんだ」
持ってこられたドリンクを受け取り、クルクルとストローで掻き回す。
「綺麗な音、汚い音、高い音、低い音。絶対誰もが心に音を持っているのに、その人は無かった」
でね、と心操の目を見た。
「私はその人に……ヴィランに、命を助けられた」
話を続ける素振りのないAに、心操は口ごもらせる。彼には音が聞こえないが、彼女は荒波の音をたてているような、そんな気がした。
「そのヴィランは……どうだったのかな。本当に悪い人だったのかもしれないね。でも、私は、ずっとずっとそうは思ってない」
いつもと違うスローテンポの話し方。それは自分に言い聞かせているようなもので、心操から目を逸らし胸に手を当てる。
「だからきっと、免罪か何かで、そのうち出てくるって信じてた。でもね……ニュースで死亡通知を見た時は驚いたよ」
心操はその言葉を聞いて、昨日のニュースを思い出す。
「……あぁ、そうそう、見た目がね、君に似てた」
穏やかな笑みになり、Aは心操に目を向ける。
「君は彼女と違って……真逆で、誰からも聞いていない音を持ってたから、声をかけたんだけど、もしかしたら運命だったのかもね」
「……運命？」
「そ」
だってさ、とその声を聞いた時、心操はその音が震えていることに気がついた。
「君はきっと素敵なヒーローになる。私の恩人は極悪ヴィラン。同じようで全く違う、そんな私にとっての、素敵な人に出会えたんだからさ」
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桜芽杏(プロフ) - にょるとさん» 閲覧ありがとうございました！ピアノの曲のようなお話、と言っていただき、私の作品への思いと夢主たちの物語にこもった気持ちが伝わっているのがわかり、とても嬉しいです。こちらこそわざわざコメントまでありがとうございました！ (2021年9月12日 11時) (
レス) id: 4e2ed4ed51 (このIDを非表示/違反報告)
にょると(プロフ) - 本当に本当に素晴らしいピアノの曲のようなお話でした…！！素晴らしい作品をありがとうございます！ (2021年9月12日 3時) (レス) id: 4a7d856f5b (このIDを非表示/違反報告)
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