21輪 ページ21
年を越すと大吉のおみくじが写真で送られてきた。心操は中吉のおみくじを送り返すと、少し遅れて返信が来る。
『大吉と中吉、足して2で割って四捨五入したらギリ大吉かな？』
『どういう計算ですか』
気づけば入試直前。いつも通り部屋で勉強しようとした1月下旬。不意にインターホンが鳴る。
そこに映っていたのはAの姿だった。
「よっす！」
紫色のキャップを被り、マフラーと薄手の上着を羽織る姿を見て、「寒くないんですか」と尋ねる。
「暑がりだからね！というか、驚かないの？」
「年賀状交換してますし、住所は知っててもおかしくないかと……」
心操は首を傾けながらそう返事すると、Aは「そういう事じゃないんだけどなぁ〜」と唸らせながらつぶやく。
「まぁいいや。はい！これ」
渡されたのは合格祈願のお守り。
「わざわざこの為に……いいんですか、これ、貰って」
「もち！あぁあと、一応今日も午後からコンサートがあってね！通り道で通っただけだから気にしないで」
じゃあこの辺で、と去ろうとするAの背中を見て、思わず声をかけそうになる。
「あ、そうだ」
その瞬間、Aは心操に振り返り、もう一度近くへ寄った。
そしてワシャリ、と犬を撫で回すように心操の頭を触り、
「頑張れ！」
と朗らかに笑った。
それだけで心操は満足していた。それだけでいい、と口角を上げて「はい」と答えた。
受験当日。
心操は貰った合格祈願を鞄の底に入れ、家を出た。
ヒーロー科の試験は午前に行われた。筆記は手応えがあったが、実技試験はまるでダメだった。
機械相手では個性は通用しない。かと言って周りの受験者を呼びかけて洗脳しようとしても、みな必死の形相でロボットを壊しているため、まともに反応してくれる人などいなかった。
(ああ、ダメだ)
試合開始から数分。絶望したようにため息をついた。
長めの昼休みを終えて午後は普通科の受験。同日か別日かは選択可能だったが、心操は同日の日程を受けていた。
「やめ」
受験が終わる。いい手応えだった。ただそれだけの、簡素な感想だけが心操の頭を飽和していた。
帰り道、目の前の1人の同じ受験者が合格祈願を鞄から落としていた。思わず拾い上げ、見失わないように後を置追う。
(なんで拾ったんだ、俺)
ただ何となく、Aならそうする。そんな考えが心操の脳裏を過ったのだろう。
人混みだった校内をぬけ、散り散りと受験生たちが各方面へ散っていく。
その中にずっと目で追っていた、眼帯をつけた一人の少女もいた。
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桜芽杏(プロフ) - にょるとさん» 閲覧ありがとうございました！ピアノの曲のようなお話、と言っていただき、私の作品への思いと夢主たちの物語にこもった気持ちが伝わっているのがわかり、とても嬉しいです。こちらこそわざわざコメントまでありがとうございました！ (2021年9月12日 11時) (
レス) id: 4e2ed4ed51 (このIDを非表示/違反報告)
にょると(プロフ) - 本当に本当に素晴らしいピアノの曲のようなお話でした…！！素晴らしい作品をありがとうございます！ (2021年9月12日 3時) (レス) id: 4a7d856f5b (このIDを非表示/違反報告)
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