13輪 ページ13
それから約1ヶ月。お互い大した音沙汰もなく時が過ぎた。ふたり共々夏休みに差し掛かり、心操は受験勉強に勤しんでいた。
(……気にしてないはずなんだけどな)
スマホを触る度に思い出すのはAの声と音。もう一度聞きたい、とも思うこともある。けれど触れてしまえばいけないような、そんな複雑な心境になっていた。
(調べたら出てくるものなのか……？)
ペンを置き、少し勉強机から離れて椅子に深く腰かける。動画投稿サイトで彼女の名前を検索すると、心操が思っていた以上の動画数が表示される。
(2つだけどこかの公式サイトが出してるやつがある……2億回再生！？)
咄嗟に動画をタップしてしまう。聞くつもりは毛頭無かったが、Aが歩いてくるシーンが流れ始め、押してしまったものは仕方がないと思い込んだ。それは定点カメラで撮影されたもののようだ。
コメント欄を見てみると、日本語以外の言語でも埋め尽くされていた。評価数は圧倒的に高評価であり、彼はまた彼女のことを遠い存在だと再認識していた。
彼女が椅子に座り、鍵盤に手を当てた瞬間に手元のカメラに切り替わる。そして繋げていたイヤホンから音が響き出す。
重低音が響いた。
イヤホン越しでも伝わる、Aの奏でる音の響は、生で聴いていた時と同じくらい躍動的であった。マイクがピアノと近いからか、イヤホンで聞く世界はまた異なるものであった。
鼓膜が直接震わさせる感覚。胸に響く振動も、祭りの太鼓ほどのものだ。
(幻想即興曲……)
曲の解説をを見ているうちに曲が終わる。その最後の瞬間、一瞬Aの顔がアップで映された。
(……Aさん、本当に少女にしか見えない)
すぐに黒くフェードアウトし、動画が終わる。
心操はふと、自分がAのコンサートの開催情報を見ていたことに気付く。しかしそのまま手を止めることなく、位置情報アプリを起動させた。
(1週間後、2駅となりの所でやるのか)
空いている時間帯は2コマだけ。座席表を確認するとほとんどが埋まっていた。空いていたのは後ろの2階席のみであった。
(……この日だけでもうコンサートには行かないでおこう)
心操は決意したように空いていた座席をタップする。そのまま手続きに沿って座席予約購入を終えた。
「……1週間後」
あの音が聞けるのか、という思いと同時に、Aの姿を思い出す。
一瞬でもあの笑顔を思い出した自分に疑問を感じた。
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桜芽杏(プロフ) - にょるとさん» 閲覧ありがとうございました！ピアノの曲のようなお話、と言っていただき、私の作品への思いと夢主たちの物語にこもった気持ちが伝わっているのがわかり、とても嬉しいです。こちらこそわざわざコメントまでありがとうございました！ (2021年9月12日 11時) (
レス) id: 4e2ed4ed51 (このIDを非表示/違反報告)
にょると(プロフ) - 本当に本当に素晴らしいピアノの曲のようなお話でした…！！素晴らしい作品をありがとうございます！ (2021年9月12日 3時) (レス) id: 4a7d856f5b (このIDを非表示/違反報告)
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