11輪 ページ11
「だから今君が、色々と考えているのはわかるよ」
心操は目をAに向ける。明るく笑った顔のAがすぐ近くまで来ていた。
「あと、大体私の情報はネットで調べたら出てくるよ。雄英普通科の高校三年ってこととかね」
「……そう、ですか」
「よし！じゃあ化学やろう！化学！雄英入試の傾向もだいたい覚えてるし、そこメインで！ね？」
デザートが置かれ、それから小一時間ほど店に滞在していた2人。気がつけば15時を前にした時に、その日は解散となった。
「またね！人使くん！」
心操は大きく手を振る彼女に、軽く手を振り返す。
(……今日だけでAさんのことを色々知れたな。それに、勉強を教えるのもとても上手かった)
彼はまだ解決出来ていない。
彼女がどうして自分と深く関わっているのか、同時に自分も彼女と関わろうとしているのか。
(本当に俺が彼女といて楽しいと思ってるから……？)
そんな疑問を抱えながら、心操は帰路についた。
Aは家に着くと、「ただいま」と声をかけてすぐに自室に入る。
「おかえり〜」
遠くで彼女の母親が緩い声で返す。
「どこ行ってたの〜」
「んー？カフェー」
大きな声でそう返し、シンプルな帽子掛けに帽子をかける。そして広い部屋の中央にあるグランドピアノの椅子に座る。
宙を見上げた。
(……なんで彼とこんなに話したくなるんだろう)
携帯を見返す。心操の端的なメッセージを見返しながら画面を上にスクロールして行く。
(逆ナン……だよね、あれは。よく彼も付き合ってくれるなぁ)
出会った日のことを思い出す。
Aはその日、ピアノのコンサートがあった。時間を潰すためにふらふらしている中、路上ピアノが置かれていた。それはとても古く、ホコリも積もっているような誰の目にも止まらない普通のピアノだった。
人通りの少ない中、彼女はそのピアノをじっと見つめていた。
(お前、弾かれたい？)
心の中でそう声をかける。蓋を開けて、真ん中の"ド"の音を鳴らす。
(はは、やっぱ弾かれたいよね。そのために生まれてきたもんね)
口角を上げ、椅子に座る。その頃には数人の人が集まっていた。
(流石にピアノを触ってたらバレるかぁ、まぁいいや。後でマネに怒られるだけだし)
息を整える。
騒音を消す。
目の前にあるのは音だった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 47人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
桜芽杏(プロフ) - にょるとさん» 閲覧ありがとうございました！ピアノの曲のようなお話、と言っていただき、私の作品への思いと夢主たちの物語にこもった気持ちが伝わっているのがわかり、とても嬉しいです。こちらこそわざわざコメントまでありがとうございました！ (2021年9月12日 11時) (
レス) id: 4e2ed4ed51 (このIDを非表示/違反報告)
にょると(プロフ) - 本当に本当に素晴らしいピアノの曲のようなお話でした…！！素晴らしい作品をありがとうございます！ (2021年9月12日 3時) (レス) id: 4a7d856f5b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
